海風の如く





部屋を出ると、足早に近藤の元へ向かう




──偉そうに説教したが、実質アイツを元気付けたのは総司だな



はぁ、とため息をつく



昔から沖田は妙に勘がいい



剣術もそうだが、それ以外でも沖田の勘は冴えていた



──あそこまで心配したり、気にかけたりするとなると、総司にとっても蓮は大切な……存在ということか

いや、総司だけでなく、俺も……他の奴らにとっても




この先、華蓮が自由に動くためには彼女を守り、共に道を作る仲間が必要だ



そのために新撰組を動かす覚悟はできているが、何しろ新撰組はまだ小さい組織



土方は自ら考えていたことを実行しようとしていた



そして皮肉なことに、華蓮は新撰組を大きくし、後に大事件を巻き起こしてしまうこの計画に気づかずにいたのである








「近藤さん、いるか?」



「ん?、歳か…いるぞ」



近藤がいることを確認し、中へ入る



「何か話があるのか?」



顔を見て早々、近藤は土方の真意を見破る



長年の付き合いだ、お互い大事な話がある時の顔つきも覚えてしまっている



「ああ、前々から言ってたことだが」



「うむ、その件は俺も賛成だ
池田屋と今回の事件で思い知ったからな」



近藤は腕を組み、何度も頷く



「なら、人選だが…………平助はどうだ?」



「…平助か、いいんじゃないか?
体調の方も蓮君のおかげで、万全だろう」



池田屋で負った額の傷は、華蓮の力によって、完全に治癒している



「わかった、んじゃ、俺は下準備してくる」



手短にまとめると、土方は出て行こうとした



「歳、蓮君には言ってあるのか?」



「いや、蓮も落ち込んでてそれどころじゃなかったし、これからは動ける奴らで町の復興と長州を追っ払う仕事があるからな」



要するに土方は華蓮に余計な負担をかけたくないのだ



ましてや、これは組織の話



近藤や土方が動けば十分だと考えていた




「そうか……蓮君は愛されているなぁ」



「こ、近藤さん……」




近藤としては悪気があるわけではなかったのだが、土方を照れさせてしまった



ガハハと笑うと、その笑みのまま近藤は口を開く



「頼んだぞ、歳」



「ああ、任せとけって」



土方にとって、近藤の頼み以上に自分が力を発揮できるものなどなかった