「拓弥」
甘い甘いチョコの香りに包まれて。
額と鼻頭が触れ合ったまま。
名前を呼ばれただけなのに、胸が熱くなる。
「なんか言えよ」
祥太が俺に言葉を促す。
「……ずるい」
「それだけ?」
「……チョコが、欲しいんだろ?」
意を決して、俺は軽く祥太の肩を押して離れた。
クッキングシートの上に残っているチョコをひとつ摘みあげて、祥太に視線を合わせる。
「明日は、何もないからな」
一言、軽く念押しする。
バレンタインデーは、明日。
だからと言って、明日に持ち越して仕切り直せる様な神経は持ち合わせてない。
「祥太」
煩く鳴り響く鼓動の音しか、聞こえない。
嫌な熱さが身体を駆け巡って、手が震える。
どうにか祥太の顔の前までチョコを運んだ所で気力の限界が来た。


