「ソレ、触るなよ!」
俺の一言に、明らかにチョコへと伸ばし掛けていたアイツの手が止まる。
「コレ食ったのゆいちゃんにバレたら怒られる?」
「俺がお前を怒る」
「なんで?」
「いいから、コレ持って帰れよ」
俺は持って来た本を幼馴染に押し付けると、キッチンへ回ってチョコレートを容器から取り出し始める。
「うわっ、もしかして、お前誰かにチョコやんの?」
「勘違いするなよ。これは姉貴に頼まれて仕方なく作ってるんだ」
「あー……ゆいちゃん料理下手だもんなぁ」
その声には少し同情の色が含まれている。
俺に対してなのか、姉貴の彼氏に対してなのかは分からないけれど。
「あれ? ゆいちゃんは?」
「残業だって」
「おじさんとおばさんは?」
「残業と町内会の集まり」
ふうん、と乾いた返事が帰ってくるが、俺には兎に角時間が無い。
ドラマなんか録画すればいいのかもしれないけど、やっぱり何がなんでもリアルタイムで見たい時ってあるじゃないか。


