「──えっ、ちょっと待ってよ!!」


 すっかり日も暮れた18時。

 自室のベッドに寝転んで、呆然と携帯を見つめている俺。

 突然掛かって来た電話は、無情にもあっさりと切れた。

 無機質な音を聞きながら、俺は数秒の会話を必死に思い出した。


『残業で帰れなくなった。材料用意してあるから作っといて!』

「何を?」

『チョコ!』

「は?」

『彼氏にあげるチョコだよバカ!』


 通話の相手は姉貴。

 要するに、彼氏にあげるチョコを自分で作れなくなったから代わりに作れ、と言いたいらしい。

 男の俺に。

 彼氏にあげるチョコを弟に作らせる女がどこにいる。

 そんなもん、貰った彼氏が哀れだ。

 俺だったら泣く。

 悔しい事に恋人は居ないけど、仮に居たとしてそんな事されたら絶対に泣く。

 けれど、俺に選択肢なんてものは無い。

 小さい時から姉貴に逆らえない俺は仕方なくキッチンへ入り、夕食の準備をする母親に怪しまれながらもそれらしきブツが入っているスーパーのレジ袋を見つけた。

 中に入っていたのは割チョコとチョコを流し入れるアルミの型。