彩香がそう思った時。


「ったく、考えなしに突っ込みやがってぇ!!」


 ジョージは言いながら彩香の横を走り抜け、カウンターの前にいる男の銃を蹴り上げた。
 そして間髪入れずにもう1人の懐に潜り込み、そのままタックルする。
 大柄な身体とは思えないくらい、素早い動きだった。
 彩香はフロアをぐるりと見渡す。
 客達が慌てふためいて出口に殺到しているが、黒づくめの男達はそんな客には目もくれない。
 そして、こっちに襲いかかって来た男の胸ぐらを掴むと、一気に投げ飛ばして。
 その視界の隅に、2人がフロアの奥にあるVIPルームに向かうのが見えた。
 明らかに、誰かを探している。
 煙はどんどんフロアに広がっていき、視界も悪くなってきた。
 彩香は顔をしかめ、奥に向かおうとする。


「彩香!」


 ジョージの声が聞こえて、彩香は反射的に身をひるがえそうとするが、その瞬間、ズキッと頭が痛んだ。
 思ったように動かないと感じた時、火柱の向こうからこっちを狙っていた男が引き金を引いた。


「ーー!!」


 横ざまに床に倒れ込んだ彩香。
 だが顔を上げると、峯口がこの店を任せている店長の秋田が彩香を狙った男に飛びかかり、その腕を押さえているのが見えた。
 彩香は驚く。
 いつも腰が低くて謝ってばかりいるイメージだったのだが、予想に反して相手と互角に渡り合っている。
 他の黒服たちも同じで、銃を持っている敵に数人がかりで飛びかかり、フロアにいた残りの1人はもうすでに床に突っ伏していた。
 いつもは接客のプロとして温和に仕事をこなしている連中が、銃を持っているこの男達を相手に怯まない。
 ホステス達も消火器を持ち出して、火を消そうとしている。
 さすが峯口の店とでも言おうか。
 彩香が起き上がる頃には、店の中は静かになっていた。


「ジョージさん」


 男達を片付けた秋田が、こっちに近付いて来る。


「助かりました」
「いや、たまたま通りかかっただけだ。それに彩香が勝手に突っ込むもんだからなぁ、俺もつい、手ェ出しちまった。悪かったな」


 どうしてここで謝るのかと不思議に思っていると、ジョージはこっちを向いて。