「人間はみんな、過去を積み重ねて生きてるんだ。確かに他人に関わるのは面倒だし、逆に自分の過去にずかずか入ってこられてもムカつくしな」
「・・・・・」


 黙っている彩香の正面に回り、ジョージはくしゃっとその頭を撫でた。


「それでもお前は、俺達の過去に関わっていいのか聞いた。つーことは、ほんのわずかでも関わりたいと思ってくれてたって事だ」
「何だよそれ」
「だからな、オヤジはきっと教えたかったんだと思うぜ。過去に踏み入っていいのは、仲間だけだってな」


 峯口が何故、彩香をこの件に関わらせたかったのか。
 それは、ジョージと風間との関係を、再認識させるため。
 全く知らない他人ではなく、ただの隣人でもなく。
 “仲間”、なんだと。


「なぁに赤くなってんだよ。彩香ちゃん、かーわーいーいー♪」


 大笑いするジョージ。
 呆然としていた彩香は、はっと我に返った。


「うるせぇよ!」


 顔を隠すように慌ててジョージから離れ、ずかずかと店の出口に向かう。
 ジョージは慌てて会計を済ませ、外に出た彩香を追い掛けて。


「一応誤解のないように言っておくけどな、俺がさっき関わって欲しくねぇって言ったのは、今回の件はちょいと面倒な相手なんだよ。だからお前の安全を考えてだな」
「ジョージ」


 いきなり立ち止まり、彩香はジョージを振り返った。


「ムカつくんだよ」
「・・・は?」


 腰に手を当てて仏頂面をしている彩香。
 まだそんなに遅い時間ではない通りの雑踏は、そんな彩香には目もくれずに足早に通り過ぎて行く。


「最初にあの女を見た時にムカついたんだ。あいつのせいで仕事が出来なかったし、隼人もめっちゃテンション下がるし。だからあの女が何なのか突き止めてやろうと思った。それだけだ」


 それだけ言うと、彩香は再び歩き出した。
 受け止めようによっては、自分は美和に嫉妬しているとも受け取れる言葉だ。
 本人はそんな事、全く気付いていないようだが。


「やっぱ可愛くねぇ」


 苦笑しながら軽くため息をついてジョージは彩香を追い掛け、その目の前にさっき貰った領収証をちらつかせて。


「なぁ彩香、これって経費で落ちると思うか?」
「知るかよ。あぁそうだ、お前のオヤジ、連絡もつかないお前らの今月の給料さっ引くって言ってたぞ」
「ウソだろ!?」


 愕然とするジョージに、彩香はざまぁみろと笑った。