TRIGGER!2

 ジョージは、短くなったタバコを灰皿に押し付けた。


「そこで知り合ったのが美和だよ」


 何もかも嫌になって自棄になっている風間。
 ふと立ち寄った店で、美和が歌うステージを見た。
 気がついたらすっかりその歌声に魅了されていて、毎日のようにその店に通う。


「いつも聞きに来てくれてありがとう」


 真っ赤なドレスを身にまとった美和が、風間の元に近づいた。
 元々あまり女性と話をするのが得意ではない。
 最初はぎこちなく愛想笑いを返すだけだったが、次第に、少しずつ会話が続くようになっていった。


「プロにはならないんですか?」


 風間はそう聞いてみる。
 美和はブランデーのグラスを傾けながら、そんな風間に笑顔を向けて。


「私なんて、そんな器じゃないわ。それに、今のままで充分満足してるもの」
「勿体ないですよ。それ程の実力を持っているのに」
「その実力は、この街の人達だけに使うわ。それなら、全然勿体なくないでしょ?」


 そう言って屈託のない笑顔で笑う美和を、風間はじっと見つめる。
 自分も最初は、誰もが認める実力を持っていると思っていた。
 いや、今でも思っている。
 大学の成績も、訓練の成果も、今まで誰にも負けた事がなかった。
 そして正義感も、人一倍持っていると自負している。
 だが、第一線で活躍するという自分の意志は、上層部の連中にことごとく握りつぶされて。
 気がついたら、こんなゴミ溜めのような街に弾き飛ばされていた。
 この街で起きる軽犯罪は後を絶たず、警察も全部には手が回らない。
 むしろ、ある一件の事象に関わっている間にも次々と犯罪は起きる。
 だから必然的に、大きな犯罪だけを選んでそこに力を入れる事になり。
 事実上、軽犯罪を黙認しているような形になってしまっている。
 許し難い事だったが、風間一人ではどうにもする事が出来なかった。