TRIGGER!2

「ここにいる若者達にも、多少なりとも悩みはある。だけどこうして皆で酒を酌み交わし、気に入った相手と話をして、素晴らしいショーを見て、音楽に合わせて踊る。そうしていれば、悩みなんて消えて無くなるんだよ」


 彩香は黙っていた。
 それを感心しているのだと勘違いしたのか、佐久間は満足そうに酒をあおる。


「あぁ済まないね、今のは医者らしからぬ発言だったよ。これでも敏腕と噂の先生なんだよ。だから彩香さんも、何かあったらおいで」


 そんな佐久間の言葉を聞いて、彩香は不敵に笑う。


「あーあたし、医者嫌いなんだよねぇ。でも、本当に悩みができたらさ、ここに来ればオジサンと話が出来るよね?」


 この男の一挙手一投足に集中するあまり、彩香はタバコを吸うのも、カクテルに手を着けるのも忘れている。 
 そんな彩香の手を握り。


「そうだね、でもその前に、彩香さんとの信頼関係を築かないといけない」
「・・・・・」


 少し酔いが回って来たのか、佐久間は、微かに口元をひくつかせる彩香に全く気付かない。
 それどころか、肩に手を回して来て、耳元に息がかかるくらいの距離で囁く。


「君みたいな子は好きだよ。特に、これから仲良くなるまでのプロセスがね」


 酒臭い息を吐きながらそう言う佐久間。
 もう既に、彩香の我慢は限界ギリギリまで達していた。


「・・・こん・・・の」
「彩香じゃねぇか!」


 拳を振り上げかけた時、反対側からいきなり肩に手を掛けられ、身体ごと引っ張られる。
 何か見たことのある太い腕と、聞いた事のある声。
 顔を上げると、そこにはジョージが立っていた。


「彩香さん、知り合い・・・」


 知り合いかね、と聞こうとしたのだろうが、佐久間がその質問を全部言い終わらないうちに。
 バシイッ!!
 と、彩香に平手打ちがジョージの頬にヒットした。
 その拍子に、せっかく佐武が作ってくれたカクテルが床に落ちる。


「いってェ!?」


 慌てて手を離し、ジョージはひっぱたかれた頬を抑えてその場にうずくまる。


「おっせぇんだよこのタコ!! どこ行ってたんだ!!」


 彩香のあまりの剣幕に、佐久間が苦笑して。


「待ち合わせだったのかな? 佐武くん2人にもう一杯差し上げて」
「はい」
「あ、じゃあ俺達、瓶ビールで頼むよ!」
「だぁれが瓶・・・」


 言い返そうと思った彩香の口を塞ぎ、引きずりながらジョージは愛想笑いを浮かべる。


「久々の再会なんだ、俺達空いてるテーブルに移動してもいいか?」
「構いませんよ、彩香さん、良かったらまた話し相手になって下さいね」


 そう言いながら、佐久間は笑顔で軽く手を上げた。