TRIGGER!2

「この店は初めてですか?」


 佐武は笑顔を絶やさずに話し掛けて来る。
 彩香は適当に笑顔を返しながら、少しだけ疑問を抱く。
 まがりなりにもこの人気店を任されている店長が、客の顔を覚えていないなんて。


「女性お一人で来られるお客様は珍しいですよ。見ての通り、毎日お祭り騒ぎですから」
「だよな」


 だったら尚更覚えてろよ、と心の中で呟いて、彩香はフロアを見渡した。
 大音量の音楽に合わせてフロアで踊る者、隣のテーブルの女の子に声をかけてナンパをする男たち。
 誰もが皆、楽しそうだ。
 そんな中、佐武は彩香に話し掛けながらもせわしなく手を動かし、次々に来るオーダーを消化している。
 その注文の殆どはカクテルで、佐武は無駄のない動きでどんどんグラスを並べて行く。
 ウエイターがそれを運んで行って。
 彩香は、思い出したように聞いた。


「ロングアイランド・アイスティーってある?」


 バー“ムスク”でバーテンダーが出したカクテルだ。
 カクテルを提供する店でもあまり見ない、『小百合ちゃん』が好きだったというカクテル。


「ウチのメニューにはないですけど、良かったら作りますよ」


 嫌な顔ひとつせずに、佐武は言った。
 いやまだいいよ、と、ウイスキーのグラスを持ち上げながら彩香は笑う。
 少なくとも『小百合ちゃん』は、この店には来ていない。


「ねぇ、今日はショータイムはあるのか?」
「はい、あと一時間後に予定してます。うちは決まったダンサーと契約してないから、ショータイムは毎日ではないし、時間も決まってはいないんですけどね」
「昨日のダンサーは?」


 グラスを口に運びながら、彩香は聞いた。
 『美和』の正体。
 峯口からはここの内部事情を探って来いと言われたが、彩香の一番の目的はこれだ。
 あれだけ若者達を魅力するダンサー。
 店長である佐武が彼女を知らない筈がない、と思ったのだが。


「昨日?」


 予想に反して、佐武は首を傾げて。
 彩香は少し、目を見張る。


「昨日は残念ながら、ショータイムはなかったんですよ」


 そう言う佐武を、彩香はじっと見つめた。
 真面目そうな好青年に見えるこの男が嘘をついているとは思えなかった。
 例え嘘をついたところで、何の意味がある?
 彩香は平静を装いながら言った。


「そっか。知り合いから聴いたんだよ。ここには美和っつう人気のダンサーがいるってな」
「美和・・・」


 手を止めて、記憶を必死に辿っている佐武。