☆  ☆  ☆


 ーー少し時間を遡るが。


「何をしている?」


 そんな声が聞こえ、風間は屋上のドアを振り返った。
 そこには、黒いマントに頭からすっぽりと覆われた雛子が立っていた。


「雛子さん・・・」
「何かの余興か?」


 つかつかとこっちに歩み寄りながら、雛子は水島とオカマちゃんトリオの姿を交互に見つめる。


「雛子さん、今夜はこちらに来ないで下さい。危険ですから」
「それでも、やらなければいけない事もあるんだよ。風間、お前にだってあるだろう?」
「・・・えぇ、そのためにこうして待っているんです」
「誰を?」


 雛子は真っ直ぐに、風間を見つめた。
 それは田崎だ、と答えれば、間違いはないのだが。
 何故か風間には、それが言えなかった。


「美和だろう?」


 雛子の言葉に、風間は動けなくなる。


「お前が待っているのは、美和だ。いや・・・」


 一旦言葉を区切り、雛子は夜空を見上げた。


「美和はもう居ないんだと完璧に認める、その瞬間を待っている」
「やめてください」


 たまらずに、風間は言った。


「俺はもう、そんな事は分かってるんだ・・・」
「そうだな。今夜は色々な事に決着がつく夜になる。手に入れるものと無くすもの、どちらが大きいのか・・・それは俺にも分からんが」


 言いながら、雛子は非常階段に向かって歩き出した。


「お前は何も分かってないな。本当に見えていないものを見たような気になって、見えているものを何も見ていない」


 それだけ言い残して、雛子はカンカンカン、と非常階段を降りて行った。


「何よあれ?」
「意味が分からないわねぇ」


 そんな雛子を、オカマちゃんトリオも首を傾げながら見送って。
 立ち尽くす風間の背中に、また、別の声が聞こえてきた。


「あたしには分かる気がするわ、風間さん」


 見るとそこには、友香がいる。
 いつもの居酒屋に立つ割烹着ではなく、Tシャツにデニムのボトムスというラフな格好だが。


「本当に美和を助けたいなら、ここにいるべきではない。あなたも動くべきよ」
「・・・・美和は・・・」


 美和はもう居ない。
 そんな事は分かっているのだ。
 だが、友香の言い分に、何も言い返す事が出来ない。


「あらぁ、風間ちゃん。あなたいつから、女の腐ったような性格になっちゃったのよ?」


 そう言いながら屋上にやってきたのは、桜子だった。


「まっ・・・」
「ママぁ~~~~!!」


 桜子の姿を見て、オカマちゃんトリオが駆け寄った。