上品な味付けのハモの叩き。
お吸い物。
白いご飯……。

どれも美味しい。
しかし、一口食べる度に、鼻の奥がツンとする感覚に襲われる。


「お注ぎさせていただきます」
白粉の香りがする。ふと顔を上げると、山崎の徳利に美寿々が酒を注いでいるのが視界に入った。
「おおきに」
山崎は上機嫌。
「お兄さん、お酒よう飲まはりますか?」
「ん? 飲むで! 日本酒が好きやなぁ。」
知らなかった。山崎が酒をよく飲むなんて。日本酒が好きなんて。

そんな花織の思いに気づいているのか、そうでないのか、美寿々は口に手を当て、上品に笑った。
「この日本酒、おいしおすえ。」
「楽しみやな!」
山崎は、楽しそうだ。

「もう、嫌。」

花織は席を立った。

「お兄さん、どこいかはるのどすか?」
美寿々が山崎の隣から花織に話しかける。
「ちょっと、厠に。」
できるだけ、冷静に。ばれないように、平常心。
「ご案内しますえ?」
「大丈夫です。ありがとう。」
この座敷から出るための嘘なのだ。

部屋からでた。その瞬間、花織は大きな溜息をついた。