それから山崎はぽつぽつと本音を話し始めた。
「俺は……妻も、家族も、名前も全部捨てて、
今まで監察方として新選組のために人を騙して情報を仕入れてきた。
それが正しいと思っていたし、国のために戦いたいと願う俺にチャンスを与えてくれたものに恩返しが出来ると思っててん。

人を騙すなんてことは、決して正しいことじゃないねんから、その分新選組の人達を医療で支えよう思て働いてた。

せやから、今までしてきたことは帳消しになっとるって思い込んでた。


せやけど、安藤を助けることが出来ひんかった……。

俺は、なんもできてないやん!!」


花織はその言葉を敢えて否定しなかった。こういう時にかけられる否定の言葉は、単なる同情にしか聞こえないのだ。

しかし、花織は一言だけ、告げた。

「でも、きっと。烝さんがこうして心を尽くして支えてくださっているから私を含めて、隊士たちは思いっきり戦えてると思うんです。だから、安藤君もきっと、そうだったと……、思います。」

花織は、最後の方に涙を流していた。



「ありがとう、花織。」


そして、山崎はそういって、立ち上がり
、こちらを向いて笑った。
いつものような無邪気な笑顔だったとは言えないが、先程のようなくもりは笑顔からはなくなっていた。