安藤の部屋の前にいくと山崎丞の声が聞こえた。
安藤が向こうの世界に行かないよう、ずっと話しかけていたのだ。

そっと麩を開けた。

「花織! この手ぬぐい濡らしてきて!」

山崎は安藤の額にある手ぬぐいを花織に投げてそういった。

花織が握ったそれは、冷たくなどなく、生ぬるかった。


井戸まで全力で走った。

井戸についた。手ぬぐいを濡らすついでに桶にたっぷりと水を入れた。


ごぼれないように気を使いつつ、走った。置の重さなど、少しも感じない。
ただ、ただ走った。どうか間に合うように。


安藤の部屋に入り、山崎に手ぬぐいや桶を渡すと、手際よく、安藤の額に乗せた。


その時、安藤の声がした。


「副長、山崎さん……。少し、松田組長と二人にさせていただいてもよろしいでしょうか……」


呼吸が苦しそうだ。そんな彼のこの丁寧な言葉遣いは、彼の性格を表しているようだった。


あぁ、という土方の声を合図に山崎と土方は安藤の部屋から出た。