「どうしたんだよ、花織。こんな夜遅くに」


後ろから声がした。


なみだを急いで袖で拭き、目をゴシゴシとしてから振り返る。


「平助…くん。」



「どうしたんだよー。ほんとに元気ないじゃん。」


心配そうに聞いてくれる平助くん。


「今日、初めて人を斬っちゃったんだ……。」

言葉にすると、さらに現実味を帯びてきて、不安になる。

「そっか……。」

平助は、静かにそう呟くと、花織の隣に腰を下ろした。


「俺もね、初めて人を殺しちゃった時、眠れなくなったよ。」


「平助くんも……?」


「当たり前だろ。きっと誰だってそうなる。」


たしかに初めて人を殺めて、平気でいられる人はいないような気がする。


「俺は、勝負を仕掛けられて、一対一の真剣勝負に勝っちゃって……。
その時、殺してしまった相手の表情と、声が忘れられないんだ。」


平助は空を見上げていた。


「勝負したってことは、俺に命をかけてくれたってことだろ。
それなのに、俺がずっといじけてたらその人に失礼だと思うんだ。
俺、一番最初に切り込みに行くから魁先生って言われてるだろ?
その理由はこれ……なんだ。」

言い終わって、ふと目を伏せた平助の表情はどこか暗かった。

「俺はいつも人を斬っちゃったら、その場所に花を持っていって手を合わせるようにしてるんだ。」

自己満足かもしれないけど、とどこか自嘲気味に笑った。


「でも!」

平助はいきなり立ち上がって、花織の肩を叩いた。


「いつまでも暗くなってても意味ないから、明日甘いもんでも食べに行こうよ。
疲れた時、気分が乗らない時は甘いもんを食べるのが一番らしい。」


紳士だ。


「ありがとう。」


平助と話して、少しだけだけど、気持ちが軽くなった。