「あの〜。すみません!」
女の人に声をかけられ、振り向いた。
「新選組の屯所だった八木邸の前川邸に行きたいんですけど、どの電車に乗ったらいいかわからなくて……」
一年前まで、暮らしていた前川邸。それがこうして史跡になっている。
たしかに時代は変わっている。
「市バスの祇園っていうバス停があるので、そこからバスに乗って壬生寺道ってとこで降りたらいいみたいです!」
花織は目を伏せている。その間に梨花がスマホで調べて女の子に伝えていた。

「そういえばさ、新選組に女隊士がいたらしいんだって!」
思い立ったようになぎが言った。
「それでね、偶然なことにその人の名前、松田花織って言うんだって!」
驚いて、思わず顔を上げた。
「え……。」
「知らなかったんだ! 花織、新選組好きだから知ってるかと思った〜!」
なぎは、続ける。
「しかも、それだけじゃないの! すごく強くて、優しくて、女の子なのに組長やってたんだって!」
こんなふうに思っていてくれていたとは、恐れ多いし、嬉しい。
「花織も女子なのに主将やってるし、名前だけじゃなくてそっくりだね!」
みずきにそう言われ、自分のやっていたことは現実だったのだと思い知る。

「みんな! これ見て! すごいロマンチック〜」

立ち止まって、梨花がスマホの画面をみんなに見せた。
そこには、かっこいい男の人が切れ長の目を細めて笑っている写真があった。山崎だった。
手には、匂い袋が握られている。
「永倉によると、この写真で山崎が握っている匂い袋は、松田花織が彼にあげたものらしい。

山崎はこれを気に入り、肌身離さず持っていたのだという。」
写真の下の解説を、梨花が読んだ。

その時、膝から力が抜けて、祇園の石畳の上に花織は座り込んでしまう。
「みんな……!」
涙が地面にしみを作る。

あなたとなら、すべて捨てたっていいと思えたの。
「山崎さん、山崎さん、山崎さん……!」
あなたに会いたい。
今すぐ会いたい。
もう一度、あの上方言葉を聞かせて欲しい。
この優しい笑顔を、今でも忘れない。