ふたりは再びさっきまでいた河原に腰掛けた。
「山崎さん、これ……。」
匂い袋からは、優しい花のかおりがした。
「おおきに。こんどはおれのばんやな。」
「はい!」
「後ろ向いてや。」
言われるがままに後ろを向く。

不意に彼の指が首に触れ、心臓がはねる。

「できた……!似合ってるで!」
簪をさしてくれていたようだ。
「ありがとう……ございます……!」
なんだかもう、言葉にできない気持ちになって、振り返るとすぐ、花織は山崎に抱きついた。

「いつも励ましてくれてありがとう。
優しくしてくれてありがとう。
心を溶かしてくれてありがとう。

私に恋をさせてくれて、ありがとう……。」
感情のままに話した。
涙が止まらない。

「落ち着きや、花織。」
ぽんぽん。
山崎が頭をなでる。
「俺も、花織と過ごせて、ほんまに幸せやったで。
欲を言うたら、もっと色んなことしたかったけど。
これくらいの方が、ろまんてぃっくやろ?」
いつか私は山崎にロマンティックという言葉を言ったことがある。
こんなところも、大好きだ。
「はい……!すごいロマンティックだと思います……。」

二人の間に静寂が流れる。

「もしもこれが運命やないんなら、俺たちで運命に変えればええやん」

大好きな声。

「いつかまた逢おう。
今度はずっと一緒にいられるように。」

無情に過ぎてゆく時間の中で、二人。
脆くて、儚い約束を交わす。

「何度だって山崎さんを探すから。
山崎さんも、私を覚えていて」

そういったとき、視界に、何かがよぎった。
電車や、ビル、着なれた制服、スマートフォン。
それは、確実に平成の景色だった。
頭が痛い。

「私……、もうダメみたい……。」
「わかった。気をつけて、帰るんやで。」
彼がますます強く私をを抱きしめる。
それに応えたいけれど、力は入らなくて。

「愛してる。花織。」