何かに押さえられたかのように重い瞼を必死にこじ開けた。


その刹那、ほわほわとした光が視界の中の曇りを霧散させた。


ほっとしたのもつかの間。
花織の心臓は再び大きく動くことになる。

「花織!!」
山崎が叫んだ。
「山崎さん……。」
花織の右手を山崎の両手が包んでいる。
そして、自分の頭に乗っかっている濡れ手ぬぐいと山崎の目の下のクマを見て、ずっと看病してくれていたのだとわかった。
「心配かけちゃってごめんなさい。ありがとうございます。」
そう言おうとしたけれど、言えなかった。

「目覚めてくれてほんまに良かった。俺の前から消えんといてくれてありがとう。」
山崎の切れ長の目から大粒の涙が溢れてきた。
「花織が二度と目覚めてくれへなんだらどないしよって……めっちゃ思って……。」
いつも余裕綽々で、なんでも涼しい顔してこなしてしまう彼の必死な姿を見てしまうと、なんだか言葉がうまく出せない。
すごくすごく、苦しませてしまった。

「花織、よく聞いて。」
そう言われて、花織は山崎の助けを借り、ゆっくりと起き上がった。
「花織の寝顔を見てた時、今まで花織と過ごした毎日がどれだけ幸せなもんやったか、気付いたんや。
……それなのに、守れなくて……ごめんな。」
こんなに震えた山崎の声を、今まで聞いたことがなかった。
「私こそ心配かけさせちゃってごめんなさい。
実は眠ってる時に、色んな思い出が走馬灯みたいに巡り巡っていて……。
自分は元の時代に帰らなきゃいけないんだなって思って、心があっちに行きそうになってたんです。
だけど、山崎さんの……。烝さんの声が聞こえて、私の居場所はここにもあるのかなって思ったら帰ってこられたんです。
だからむしろありがとうって言いたいくらいですよ!」
ありったけの笑顔を向ける。
目と目が逢う。
夜なのに、
どこからともなく、花の香りがする。



「好きや。」




山崎の表情がより真剣になったとき、時が止まったような気がした。

「たとえ、どこか遠くへ行ってしまうとしても、俺は……

松田花織さん。あなたが好きです。」

目の前の彼がくしゃっと笑ったから。

「私も、山崎烝さん! あなたのことが好きです。」

私も素直になれた。