こないだのボムスポットより1つ手前の防潮扉をくぐるとCoyoteは目の前.びっしょびしょになりながら申し訳なさマックスで店内を覗く.
ロクヤはここには何度かアキラと来たことがあるらしかった.フゥちゃんとケーキ食べてたリクちゃんが気づいて 驚きながらお店のドアを開けてくれるなり カウンターにいたシバさんに言われた一言.
「いつもズブ濡れだな」
「・・・」
リクちゃんから話を聞いていたアサギさんも慌てて駆け寄ってきた.
「レースじゃなかったの!? どうしたの!?」
そのまま2階の部屋へ通されてシャワーを借りた.返しに来たはずなのに またシバさんの別の服を借りる.聞けばアサギさんは服を持っていないらしい.いまアサギさんが着ている服もシバさんのものだそうだ.なんだそりゃ.
はじめて知ったんだけど 港川の水は海水だった.自分の後にロクヤがシャワーに入る.ベッドとレコードしかないのに変わった匂いのするアサギさんの部屋で 今のうちにと着替えてるとロクヤが出てきて 頭を後ろからはたかれる.
「ごめんって言ったじゃん!」
黙ってレコードをディグしだしたロクヤ.そうか 普段は温厚で揉め事が嫌いかもしんないけど 女はもっと嫌いなんだな.よーくわかった.服をシャワーですすいでいると お互い背中を向けたままロクヤが言った.
「でも女に川はやりすぎた 俺もごめん」
そしたら不思議.ロクヤのおかげで わたしも素直に謝る事ができた.
「川の事も 痛い思いさせた事もごめんなさい.あと もう死ねなんて言いません」
店舗階へ降りると まだシンジさん達は来てなかった.
「シンジ達まだ来ないの」
リクちゃんがか細い声で言うから胸がきゅんってする.リクちゃんはすごくお兄ちゃん子.
わたしもロクヤもケータイは持ってない.車ですぐ来るはずだったアズマさんとアキラですら来てなかった.探しに行こうにもすれ違いは嫌だなぁとか悩む.
だってシバさんに返したい服も ロクヤがデッキ用の靴と履き替えたブーツも アキラの車の中だ.シンジさんのケータイは今リクちゃんがここで持ってるし アキラのケータイは繋がらないときた.
「おい」
ロクヤに呼ばれる.
「アズマさんは車で来る時どこに停める?」
「わかんない.先週はじめて来た時は あたしアキラとだったから.あっでも近くにコインパーキングある」
見に行こうとすると 俺が行くと言ってロクヤは出て行った.けどすぐに戻ってくる.首を横に振る.そしてまた呼ばれた.
「あの子 シンジくんって人の妹さんしょ」
「そだよ」
「探しに行こ.案内して」
わたしは詳しくは聞いてないけど 両親がいない家にリクちゃんは1人でいたくないらしい.そう シンジさんはいつもリクちゃんを1人ぼっちにしないように気をつけていた.
すごいな ロクヤはこの短い時間にリクちゃんの気持ちがわかったのかな.
1人暮らしのフゥちゃんが リクちゃんをマンションへ連れて帰る事にした.アサギさんはリクちゃんが好きらしくなんか残念そう.
みんなそれぞれの不安定な部分を隠して 昼間は今時の10代らしく精いっぱい遊んでるんだろうな.リクちゃんは強い子だ.
ロクヤはリクちゃんに
「大丈夫だよ 見つけてすぐに連れて行くからね」
と静かな口調で言った.探しに行く事になったウチらは とりあえずさんぽ橋へ向かう事に.
前回といい今回といい お客さんとしてお金を払うワケでもなく ただ親切に甘えてるだけで アサギさんとシバさんにはいよいよ頭が上がらない.早くみんなでお客さんとしてCoyoteでゴハンしたい.アサギさんのバナナジュースを注文するんだ.リクちゃん絶対気にいるから.そう考えながらお店を出る.
フゥちゃん達が乗ってきてくれたわたしのBMXにロクヤと2ケツする.後輪のステップに足をかける.男だからロクヤが運転なのは自然な流れかもしんないけど ついさっきまで怒ってたロクヤの両肩に手を置くのは緊張した.
はじめてアキラやロクヤ達と会った時の事を思い出していた.あの時なんとなく感じとってしまった妙な雰囲気の正体を思いきってたずねてみる.
「アキラって シンジさんとなにかあったの?」
ロクヤはBMXをこぎながら
「おまえなにも聞いてねーの?アキラさんが仲良くなったって言ってたけど・・・アズマくんやシンジくんサイドとも仲いいんじゃないの?」
自分は女だから 出しゃばっちゃいけないと思って聞かなかった事とか アズマさんはいつも 隣町の話はしないからわからないって旨を伝えた.でもさっきのリクちゃんを見ていたら気にせずにはいられなくなったんだと説明した.
「不思議なやつだな」
別段おかしい事を言ったつもりはないんだけど.ロクヤは陽が落ちかけた川沿いをこぎながら話してくれた.
「そうだな・・・俺も詳しくは聞いてないんだけど シンジくんて人はご両親いないんだろ? アキラさんが最近協力してるんだってさ.こっちでの・・・港町での職とか その仕事に必要な資格の勉強とか.その事はあの妹さんは知らないのかもしんない」
簡潔で必要以上の事は言わないから ロクヤはきっと賢い人なんだと思った.
そっか お仕事のために奔走してるなんて 優しいシンジさんの性格を考えたら リクちゃんには言ってなさそうだ.だって以前 「リクは中学出たら働くなんて言ってっけど 俺は高校卒業さしてやりたいんだ」って言ってたもん.
マチちゃんやほかの同級生には 家がヤクザ屋さんな子が何人かいた.だからって言いかたは変だけど でもこの港町や隣町で 大人が忽然と消えてしまった話を聞く事は珍しくなかった.
ロクヤの話からなんとなくそんな背景が連想できてしまって でも憶測はよくないし 大人の事情を知ったかぶるのはやめなくちゃと思った.そう 今はだだ
「わかった.このままじゃリクちゃん気になる事が多すぎて混乱しちゃうね.自分もリクちゃんになにかしなきゃ」
さんぽ橋には誰もいなかった.スタート地点の東側へも渡る.そろそろ20時をまわって 東側は田舎だから商店も灯りを落として道は暗い.橋のたもとは小さい公民館みたいになってるだけだから夜は人も寄りつかないし.
西側に戻って中央公園へ向かおうとすると 丘状な橋のてっぺんまで来たところで 公園のむこうにかすかな赤い光が見えた.
「あっちはなにがある?」
「港町駅だよ」
まさかとは思ったけど駅方面へ向かう事にした.すると前から警察官が2人やってきて止められる.
「はい止まってー 2人は高校生?ダメだよ2人乗りは」
しょうがなく後輪のステップから降りた.スイマセーンと軽くあしらって行こうとすると もう一度止められる.
「彼氏のほうは スケボーとかするの?」
いえ しませんよ(彼氏でもないですし)と答えて駅方面へと急ぐ.どうしてあんなこと聞いてきたんだろ.
駅に近づくに連れ赤色灯が見えてきた.なんだか胸騒ぎがする.周囲は職務質問している警察官が多い.なんだあれ.野次馬すごい.
パトカーが3台も停まっていたのは モロに駅前のロータリーだった.
人ごみのむこうを見ると どっと冷や汗が出た.駅とはロータリーをはさんだ向かいのデパートの 大きなショウウィンドウが無残にも大破していた.外国の映画みたいだ・・・車でも突っ込んだのかな?
その時背後から「ロクヤ!」と声がした.トールだ.すぐに小走りで暗い飲み屋街へ入っていった.ウチらは状況が飲み込めずに でも反射的に トールの後を追った.
ロクヤはここには何度かアキラと来たことがあるらしかった.フゥちゃんとケーキ食べてたリクちゃんが気づいて 驚きながらお店のドアを開けてくれるなり カウンターにいたシバさんに言われた一言.
「いつもズブ濡れだな」
「・・・」
リクちゃんから話を聞いていたアサギさんも慌てて駆け寄ってきた.
「レースじゃなかったの!? どうしたの!?」
そのまま2階の部屋へ通されてシャワーを借りた.返しに来たはずなのに またシバさんの別の服を借りる.聞けばアサギさんは服を持っていないらしい.いまアサギさんが着ている服もシバさんのものだそうだ.なんだそりゃ.
はじめて知ったんだけど 港川の水は海水だった.自分の後にロクヤがシャワーに入る.ベッドとレコードしかないのに変わった匂いのするアサギさんの部屋で 今のうちにと着替えてるとロクヤが出てきて 頭を後ろからはたかれる.
「ごめんって言ったじゃん!」
黙ってレコードをディグしだしたロクヤ.そうか 普段は温厚で揉め事が嫌いかもしんないけど 女はもっと嫌いなんだな.よーくわかった.服をシャワーですすいでいると お互い背中を向けたままロクヤが言った.
「でも女に川はやりすぎた 俺もごめん」
そしたら不思議.ロクヤのおかげで わたしも素直に謝る事ができた.
「川の事も 痛い思いさせた事もごめんなさい.あと もう死ねなんて言いません」
店舗階へ降りると まだシンジさん達は来てなかった.
「シンジ達まだ来ないの」
リクちゃんがか細い声で言うから胸がきゅんってする.リクちゃんはすごくお兄ちゃん子.
わたしもロクヤもケータイは持ってない.車ですぐ来るはずだったアズマさんとアキラですら来てなかった.探しに行こうにもすれ違いは嫌だなぁとか悩む.
だってシバさんに返したい服も ロクヤがデッキ用の靴と履き替えたブーツも アキラの車の中だ.シンジさんのケータイは今リクちゃんがここで持ってるし アキラのケータイは繋がらないときた.
「おい」
ロクヤに呼ばれる.
「アズマさんは車で来る時どこに停める?」
「わかんない.先週はじめて来た時は あたしアキラとだったから.あっでも近くにコインパーキングある」
見に行こうとすると 俺が行くと言ってロクヤは出て行った.けどすぐに戻ってくる.首を横に振る.そしてまた呼ばれた.
「あの子 シンジくんって人の妹さんしょ」
「そだよ」
「探しに行こ.案内して」
わたしは詳しくは聞いてないけど 両親がいない家にリクちゃんは1人でいたくないらしい.そう シンジさんはいつもリクちゃんを1人ぼっちにしないように気をつけていた.
すごいな ロクヤはこの短い時間にリクちゃんの気持ちがわかったのかな.
1人暮らしのフゥちゃんが リクちゃんをマンションへ連れて帰る事にした.アサギさんはリクちゃんが好きらしくなんか残念そう.
みんなそれぞれの不安定な部分を隠して 昼間は今時の10代らしく精いっぱい遊んでるんだろうな.リクちゃんは強い子だ.
ロクヤはリクちゃんに
「大丈夫だよ 見つけてすぐに連れて行くからね」
と静かな口調で言った.探しに行く事になったウチらは とりあえずさんぽ橋へ向かう事に.
前回といい今回といい お客さんとしてお金を払うワケでもなく ただ親切に甘えてるだけで アサギさんとシバさんにはいよいよ頭が上がらない.早くみんなでお客さんとしてCoyoteでゴハンしたい.アサギさんのバナナジュースを注文するんだ.リクちゃん絶対気にいるから.そう考えながらお店を出る.
フゥちゃん達が乗ってきてくれたわたしのBMXにロクヤと2ケツする.後輪のステップに足をかける.男だからロクヤが運転なのは自然な流れかもしんないけど ついさっきまで怒ってたロクヤの両肩に手を置くのは緊張した.
はじめてアキラやロクヤ達と会った時の事を思い出していた.あの時なんとなく感じとってしまった妙な雰囲気の正体を思いきってたずねてみる.
「アキラって シンジさんとなにかあったの?」
ロクヤはBMXをこぎながら
「おまえなにも聞いてねーの?アキラさんが仲良くなったって言ってたけど・・・アズマくんやシンジくんサイドとも仲いいんじゃないの?」
自分は女だから 出しゃばっちゃいけないと思って聞かなかった事とか アズマさんはいつも 隣町の話はしないからわからないって旨を伝えた.でもさっきのリクちゃんを見ていたら気にせずにはいられなくなったんだと説明した.
「不思議なやつだな」
別段おかしい事を言ったつもりはないんだけど.ロクヤは陽が落ちかけた川沿いをこぎながら話してくれた.
「そうだな・・・俺も詳しくは聞いてないんだけど シンジくんて人はご両親いないんだろ? アキラさんが最近協力してるんだってさ.こっちでの・・・港町での職とか その仕事に必要な資格の勉強とか.その事はあの妹さんは知らないのかもしんない」
簡潔で必要以上の事は言わないから ロクヤはきっと賢い人なんだと思った.
そっか お仕事のために奔走してるなんて 優しいシンジさんの性格を考えたら リクちゃんには言ってなさそうだ.だって以前 「リクは中学出たら働くなんて言ってっけど 俺は高校卒業さしてやりたいんだ」って言ってたもん.
マチちゃんやほかの同級生には 家がヤクザ屋さんな子が何人かいた.だからって言いかたは変だけど でもこの港町や隣町で 大人が忽然と消えてしまった話を聞く事は珍しくなかった.
ロクヤの話からなんとなくそんな背景が連想できてしまって でも憶測はよくないし 大人の事情を知ったかぶるのはやめなくちゃと思った.そう 今はだだ
「わかった.このままじゃリクちゃん気になる事が多すぎて混乱しちゃうね.自分もリクちゃんになにかしなきゃ」
さんぽ橋には誰もいなかった.スタート地点の東側へも渡る.そろそろ20時をまわって 東側は田舎だから商店も灯りを落として道は暗い.橋のたもとは小さい公民館みたいになってるだけだから夜は人も寄りつかないし.
西側に戻って中央公園へ向かおうとすると 丘状な橋のてっぺんまで来たところで 公園のむこうにかすかな赤い光が見えた.
「あっちはなにがある?」
「港町駅だよ」
まさかとは思ったけど駅方面へ向かう事にした.すると前から警察官が2人やってきて止められる.
「はい止まってー 2人は高校生?ダメだよ2人乗りは」
しょうがなく後輪のステップから降りた.スイマセーンと軽くあしらって行こうとすると もう一度止められる.
「彼氏のほうは スケボーとかするの?」
いえ しませんよ(彼氏でもないですし)と答えて駅方面へと急ぐ.どうしてあんなこと聞いてきたんだろ.
駅に近づくに連れ赤色灯が見えてきた.なんだか胸騒ぎがする.周囲は職務質問している警察官が多い.なんだあれ.野次馬すごい.
パトカーが3台も停まっていたのは モロに駅前のロータリーだった.
人ごみのむこうを見ると どっと冷や汗が出た.駅とはロータリーをはさんだ向かいのデパートの 大きなショウウィンドウが無残にも大破していた.外国の映画みたいだ・・・車でも突っ込んだのかな?
その時背後から「ロクヤ!」と声がした.トールだ.すぐに小走りで暗い飲み屋街へ入っていった.ウチらは状況が飲み込めずに でも反射的に トールの後を追った.
