13inch 路上のルール

次の土曜日 この日も中央公園で適当に遊んでると ばらばらに集合する.だいたいシンジさんの彼女さん【フゥちゃん】が最後に来る.医療事務の仕事が忙しいらしい.
アズマさんも来たところで 2人にアキラと知り合ったことを話した.服を借りてゴハンごちそうになって お泊まりまでさせてもらって そして今日シバさんに借りたTシャツを返しに行こうって思ってる事も説明した.シンジさんは言う.
「えぇっ あのシバさんから借りたの!? あの雰囲気怖いシバさんに女友達ができたとか意外!笑」
いやいや 友達ってほどではないです・・・ ってそうじゃなくて アキラと話した事をアズマさんに Coyoteでお世話になった事をシンジさんに ちゃんと言わなくちゃいけない使命感に駆られていたから Tシャツの話題にくいついたのが予想外だった.わたしはまだ若かったから たとえば友達の家へ泊まりに行くなら 母親へ事前に説明しとかなくちゃいけなかった・・・ みたいな それと似た負い目を感じてたんだ.
しかもわたしは シンジさんはアキラの事を嫌いなんじゃないかって 勝手に勘ぐってたワケだし.
「じゃぁアキラくんにメールしてよ みんなで遊んでから きょうCoyoteでメシしようや」
アズマさんの提案だった.あれっ なにこの仲いいです感.なんか気持ち悪い.
シンジさんの妹さん【リクちゃん】が「えっ」という顔をした.リクちゃんはシバさんが怖いらしい.わかるわ.いままでみんなでいる時にCoyoteへ行かなかった自然な理由はそこだったみたいだ.
シンジさんがリクちゃんの頭を撫でながら言う.
「リク フゥとアサギさんがいるだろ笑 それに今日はエミも一緒」
「・・・うん えへへっ」
リクちゃんはアサギさんに懐いている様子か.うんうん わかるわー.

夕方 ビリジアンのChevy Truckが停まった.アキラが乗っている.いぇーいっアキラだアキラだ♫こないだ仲良くなれたからめっちゃ嬉しい.
ん?・・・もしかしたらアズマさんとアキラって同じ隣町だし Chevroletのオーナー友達なの?アズマさんのアメ車クルーってのにアキラもいるのかな?
アキラの車の後部座席から あのトールとロクヤも降りてきた.
「きょうもウチの車庫に遊び来てたから 一緒に連れてきたよ」
なんだかドキドキした.嫌ってわけじゃないんだよ? でも事実2人は わたしとシンジさんの事はよく思ってないみたいだった.つまり 自分の先輩であるアキラとアズマさんがウチらに目をかけてると思って コチラの様子を伺ってるんだ.
しかも いつも使わせてもらってるランプは アズマさんの車庫でみんなで作ったものなんでしょ.それを車を持っているアズマさんなら自由に持ち運べるんだけど トールとロクヤは アズマさんが港町のウチらのためにランプを持ってっちゃうから 隣町では使えない.けどアズマさんは3コも上だし言えないわ・・・とまぁこんな具合だと思う.

さすがにそこは 自分から挨拶するべきだった.当然だ.自分は最強の愛想で2人に言った.
「ランプの話聞いたんだよ.これ手作りなんてすごいよね!いつもありがとう!」
すると
「いい練習になっただろ」
金髪のトールが言った.どうやらまたイヤミだ.シンジさんにしてみれば アニキ分を取られたガキの嫉妬に見えただろう.それに「練習させてあげてました」みたいな恩着せがましい一言.もうっ.
わたしはアキラと話せた一件もあったし この2人とも仲良くなれればって少し期待していた.アズマさんとアキラが立ち話をはじめた間 シンジさんに缶コーヒー渡しつつ 気にしない気にしないって顔をしてみた.シンジさんも いやむしろちょっと楽しい笑みたいな顔をしてくれた.するとあちらでも
「めんどくせぇな 絡むんじゃねえよ」
と ボーズのロクヤがトールに言っているのが聞こえた.ロクヤはけっこう温厚なんだなと感心した.

むこうはずっとランプでエアーしてる.自分とシンジさんは2Pacの話で盛り上がってたら そのうちランプ側にいたアズマさんとアキラも話しに加わってきた.すると
「湾岸流すときはChanges!」
「哀愁系かぁ 夜なんて最高だね」
みたいに車の話になってきた.その自然な流れでトールとロクヤの2人も加わり わたしは途中で輪から抜けて リクちゃん達と女同士で遊んでたら いつの間にかみんなでストリートを滑走する話題になってしまっていた.イヤな予感はしたんだけど 「やろうやろう」とトールがノリノリで提案してきた.ん?
スタートは 遊歩道の【さんぽ橋】.東側から西側へ渡ると中央公園へ続いている.中央公園から川縁へ降りて 堤防の内側を南下する直線コースが勝負にふさわしいとトールが言った.どうせならそのままCoyoteまで行こうとシンジさんまでノってきた.ん?
エミはスケボーないからインラインスケートでいいよとシンジさん.ん!?

ちょっと待て! いつ誰が勝負するって言った!? ツっこんだんだけどシンジさんに言い丸め込まれる.いつもは角を立てない性格なシンジさんがトールの挑発を楽しんでる.ナマイキなトールが逆にかわいく見えちゃってるのかな.
「大丈夫 エミ陸上部じゃん」
いや意味がわからん.フウちゃんリクちゃんは「ガンバ♪」とか言いながら わたしのBMXに2ケツして先にCoyoteに行ってしまった.
シンジさんたち3人はスケボー.スケボー持ってないわたしだけインライン.BMXはさすがにズルすぎるけど インラインもスケボーより有利だ.これは女としてのハンデのように思えて ちょっと悔しかった.
でも勝てるような気が増してきて 自分としたことが だんだんやる気になってきてしまって.おもしろがってはやしたてるアズマさん.そしてアキラがスターター.左腕に巻いていた黒いバンダナをほどいて
「レディー・・・」
力強く振り下ろした.
「ゴー!」

もちろん先頭に出たのはわたし.さんぽ橋は緩やかな丘状になってるんだから スタートダッシュからわたしに有利なのは決まってた.わたしのインラインはパイプ用じゃなくて完全Ground-0 いわゆる「街乗り」使用なんだ.
港川の中間まで渡りきるとあとは下り坂.ヤバイ 視界が広い! めちゃめちゃ気持ちいい!
橋の先はスロープへそのままつながってて川縁へ降りられる.スロープを迂回していると アタマの高さを人影が横切った.ロクヤだった.あいつ階段の手すり使ってスライドしやがった.グラブからの着地で 堤防の内側にバーン!と破裂音が響き渡る.温厚なヤツだと思ったのにけっこうアグレッシブだな.そして振りむきざまにロクヤは吐き捨てた.
「女はおとなしい方がかわいいぞ」
堤防の内側はゴミが所々にあり 漁船のロープも乱雑してる箇所がある.一度目の前ポジられるとなかなか追い越せない.これ以上近づくとぶつかるし ロクヤはわざわざ妨害をおもしろがってる.このヤロ!って思って 体勢を低くしてその速度のまま 落ちてたゴミ入りの小さなビニール袋を指に引っ掛けた.
「死ね!」
と叫んでアンダースローの要領でブン投げた.7mぐらい前を滑走するロクヤの進行先に投げたつもりだったんだけど 実際は後頭部を直撃した.ゴッというニブい音.
袋の中身はどうやらワンカップ大関的ななんかで ロクヤは勢いを活かして前のめりのまんま川へ落ちた.
「うわー!ごめん!」
急には停まれなくてスルーしたんだけど 恐る恐る引き返してみた.気づくと どういうわけかシンジさんもトールも後から来ない.静かに這い上がってくるロクヤがスケボー拾い上げてこっちを睨みつける.怖い怖い怖い.
「おまえ今 死ねって言っただろ・・・!」
「言いました!ごめんなさい!」
素直に謝りつつもCoyoteへ逃げた.怖ぇえ!怖ぇえ!走って追いかけてくるロクヤも速い.わたしは背後からベルトを掴まれ そのまま川へ投げられた.