ここで路地裏に差し掛かる。

この道は近道だけど嫌いだ。
かなり年季の入ったスナックがある。
そこから漏れ聞こえてくる歌声は、それはもう酷い。

あーもう、今日もだ。この声の主、絶対昨日もここで歌ってた奴だ。
ハモりかよってぐらいの見事に外された歌声は騒音以外の何物でもない。
…お?今のビブラートは結構決まったんじゃねえか?
…いやダメだ、調子に乗ったからかまた音程が狂ってる。もうずっとビブラートだけしとけお前は。



…まあ、そんなに嫌ならわざわざこの道通るなよって言われたらそれまでだ。

じゃあなんで俺は毎日この道を選んで帰るのか。
近道だって言ってもまあせいぜい2、3分しか変わらないのに。





あーあ、なんで毎日毎日こう、イライラすんのかな。三十路間近にもなって。

思春期かよ。
反抗期かよ。
何に対しての反抗だ。

…世の中に、だ。
俺を取り巻く全ての環境に、だ。



別に俺はこの世で1番偉くて正しい、なんて思っちゃいない。

だけどあまりにも、この世の中は間違いだらけだ。
間違いと、失敗で溢れている。