「……寝るか」


自分の中に芽生えかけた邪念を振り払うように残りのビールを一気に飲み干した。

空き缶をキッチンのスーパーの袋に放り込み、ふーっと息を吐き出す。



「寝室はこっちの部屋。トイレはあっち。お前はベッド使っていいから」

「え、あの」

「なに」

「佐伯さんはどこで…」

「俺はソファーで寝る。寝起きはそんなに悪くないほうだと思うからなんかあったら声かけろ」


寝室のドアを開けてやる。
一人暮らしにはちょっと贅沢なセミダブルのベッドがあり、その横に小さな棚とランプがあるだけの殺風景な部屋。
このベッドに俺以外が横たわったことは未だに無い。
…俺もなかなか寂しいやつだ。



「じゃあな。ゆっくり休めよ」


女を寝室に押し込んでドアを閉めた。
いや、閉めようとした。


「あの!」



見れば女は俺の腕をつかんでいる。

顔は伏せられていて、長いまつ毛が震えている。


か細い声で聞こえてきた言葉は。



「や、です」

「…はあ?こんな広々したベッドが不満か?」

「違う、違います。佐伯さんだけソファーで寝るなんて」



馬鹿じゃねえのか。
遠慮しての発言だとは思うけど、誘ってるようにしか聞こえねー。