「じゃあこれ一本飲み終わったら寝るぞ」
「はい」
ところで、なんでこいつはいちいち俺の隣に座りたがるんだ。
そんな狭いソファーじゃないんだからもうちょっと離れろよ、おい。
「…家出でもして来たのか?」
ついに聞いてしまった。
聞くべきか実は迷ってた。だけど泊めてやるんだから知る権利ぐらいあんだろ。
まあどうせ終電がなくなって家に帰れなくなったとかだろ。
…いや、荷物をまったく持ってなかったからひったくりに合ったとか?
同棲してた彼氏と喧嘩して追い出されたとか?
…なんとか言えよ。
「あ、あの…今はまだちょっと、」
「あ、そう」
ならいいわ、とビールをあおった。内心めっちゃ焦る。
これ絶対聞いたらダメなやつだった。
くそ、判断を間違えた。
それに聞いたところできっと、俺に出来ることなんて無いんだろう。
「佐伯さん」
「なに」
「ありがとうございます」
不意打ちだ。
手元が狂った俺の口からビールが一筋こぼれた。
それをぐいっと手の甲でぬぐった俺を見た女の目が泳ぐ。
それを見た俺の中になんとも言えない感情が生まれる。
思えばこの家に引っ越して3年、女を上げたのは初めてだ。

