普段ならこんなこと言われたら絶対頭にくるのに、俺は何も言い返せない。

よく知らない相手だからこそ、こいつの言うことは素直に俺の心に響いた。




ソファーに並んで座ってるこの女は、俺には少し甘過ぎる。

俺はこのままでいいのに。
真っ暗な今の世界の居心地がいいのに。

こいつはまるで俺を明るい場所へ、明るい場所へとぐいぐい引っ張るように俺の中に入ってきて。

眩しいけど何も怖くないからねって言うように、俺の手に自分の手を重ねてきたりして。



「人の悪口を言うのは簡単ですよ。だけど口には出さずに自分の中にとどめておくことは難しいの。人ってそういう生き物だから」

だからあなたは優しいの、と言って、そいつは微笑んだ。


俺はなぜか無性に泣きたくなった。



「実際こうして、私を家に入れてくれました。その優しさを私はきちんと受け取りましたからね」



くそ、なんだこの女。
ムカつく。

でもムカつくのはきっと。



「お前、向かい風か追い風かどっちなわけ」


そう尋ねると、きょとんとした顔をした後、ふふっと笑った。



「下から上に、ふわっと舞い上がります」



そしてほら、と両手を広げて体を俺の方に向けた。

だからムカつくって言ってんだよ。
ま、いいや俺今日疲れてるし。



言い訳を重ねて、結局俺は目の前のこいつを真正面から抱き締めた。