ロッカーに貼られている〝黒木佐緒〟のシールの上に、マジックか何かで上書きされていた。
ブス
の文字。
別に、もう慣れた。彼らの仕打ちなど、もう痛くも痒くも無い。
そう強がるたびに、彼らからの私への仕打ちはどんどん酷さを増していくだけなのに、だけど。
そう言っていなければ、強がっていなければ、私が私でなくなってしまうような気がした。
彼らの前で涙を見せれば、自分の弱さを曝け出しているも同然だ。
決して、涙を見せない。永倉くんの前でも、永倉くんに従っているみんなの前でも。
はっと我に返ったのは、廊下から聞こえるぱたぱたという急いだ足音だった。
気づけば昇降口には誰もいない。
咄嗟に近くの時計を見ると、時計の針はもう遅刻ギリギリまでさしていた。
「やばいっ」
慌てて靴を履き替えるとロッカーを乱暴に閉めて階段をかけあがる。
三年生は四階と五階だからそれまで駆け足でのぼるのには相当の体力が必要だった。
七組は四階だ。
やっと四階へと辿り着いたとき、ざわざわと騒がしい声が聞こえてほっと安堵のため息を漏らす。
――よかった。まだ遅れてない・・・。
はあっと息を吐くと、少し乱れた制服のブラウスを整えてから、七組のクラスへと向かった。


