冬の寒いが和らいでゆく春。
私今年四年生。
私の名前は柏原 真。性別は女で、今年で10歳になる。
毎朝開校の十分前には学校の玄関前に居るのが習慣となっている。元々私がそうしたくてしたんじゃない。元はといえば、
「よう真!今日も早いな~!」
…………こいつのせいだ。
こいつは木村 綾。私の親戚で幼なじみである。性別は男。そして同年代。
「誰のせいよ誰の!何で勝負をふっかけたあんたが毎回遅いのよ!」
この小学校に入学すると同時に綾が、毎日どちらが先に学校に着くか勝負しようといいだした。……今も昔もくだらないと思っている。
そんな私が勝負にのったのは、勝負を断った私に思いっきりケンカを売ったからだ。
細かい事は何も覚えていないが、この状況をみるに私はケンカを買ったらしい。
どうやら私はケンカを売られたら買わずにはいられない性分らしい。
…今、ものすごく後悔している。
「別にいいだろ?…おっ開校だ!おっさき!」
「まちなさいよ!」
私は負けじと綾の背を追い越そうと走る。
あっという間に綾を追い抜くと、上履きに履き替えまた走り教室に入り席に着く。
少し遅れてゼーハー言いながら綾が教室に入ってきた。
「あら綾。遅いじゃないの。」
私は素知らぬ顔で読書をしながら言った。
「くっそー!また負けた!」
「あら、ごめんあそばせ。」
私は綾をあざ笑った。
綾は本気で悔しそうだ。
「でさ、真は何クラブに入んの?」
突然綾は真剣な顔になりそう言った。
「クラブ?」
「ほら、朝活動するトランペット鼓隊とか合唱団とかあんだろ?」
そういえばそうゆうのあったな。すっかり忘れてた。
放課後、陸上クラブとかビーズクラブとかあったな。 綾は何クラブにするんだろう。
…気になる。
「朝一緒に見学行かない?」
「別にいいけど、綾はどこにいくの。」
「さあ。」
さあ。って、何考えているんだ。こいつは。
その後、綾と一緒に見学に行ってみたが、これといって入りたいものはなかった。
まあ、見学なんだし別に入らなくてもいいんだけど。綾は何に入るのか決めたらしい。
まああえて聞かないけどさ。野球クラブとかそんなところじゃないの。男だし。
クラブの事が頭の中をグルグル駆け巡って、今日の授業の内容は頭の中に入らずに終わった。
「真。俺さ、トランペット鼓隊に入ろうと思うんだ。」
綾と二人で帰る帰り道。綾は突然そう言った。
正直意外だった。だって綾は音楽に全く関心がなかったから。
しばしの沈黙の後、私は口を開いた。
「別にいいんじゃない?綾がやりたいっていうんなら。」
すると綾は嬉しそうに笑った。
帰り道の途中で綾と別れると私はため息を一つ落とした。
「私、何か全部どうでもいいな。」
もう、クラブに入らなくてもいっか。
それに今日も綾に言えなかったな。大切な事。
「ただいま。」
「お帰りなさいませ。真お嬢様。」
家に帰ると必ずと言ってもいい程、使用人達が出迎えでくれる。 
けど、両親はいない。
いつも仕事で帰りが遅くなるのでめったに会った事はない。
だからなのかわからないけれど、時々寂しさを覚える。
着替え終わり私は広い部屋に佇む。
机の上には勉強の為の本がずっしりと乗っている。
鉛筆を手にとって問題の数々を解いていくものの、なかなか集中できない。
しまいには、開始から1時間後には本を閉じてしまった。
いつかは、言わなければならない。
それは、遅くなればなる程どんどん綾との仲が悪くなっていくようて怖い。
まあ、遅かれ早かれ言わなければいけないだろう。
私は椅子から立ち上がり室内にある受話器を手に取って、番号を押してゆく。
ピルルルルル
私は目を閉じてその音を聞いていた。
カチャ
「はい。木村です。」
「もしもし。柏原真です。綾?」
「なんだ真か。どうした?」
「私、綾にとても大事な事伝えなきゃならなくて。」
緊張で指先が震える。
心臓が早く脈打つ。
「私、来週引っ越しする事になりました。」
「……………え?」
暫く続き沈黙。
「おい。これ、新手のジョークか?」
沈黙の後に聞こえてきたのは、笑い声。
「いや、本当の事なんだけど。」
「いつ行くんだ?」
「来週。」
「そ。お前がいなくなってせいせいするぜ!」
「なっ、なんですって!?」
私がそう言うと、綾は途端に爆笑しだした。
「まあせいぜい荷造りを頑張るんだな!じゃ」
そして呆気なく切れる通話。
ツーツーツーという音が虚しく部屋に響く。
何か意外と事が簡単に運んだ。
正直、あれこれと悩んでいた自分が馬鹿らしくおもえてきた。
私は悶々とした気分のまま、再度勉強を再開するのだった。