あのときもそうだった。 詠斗は憎かったけど、傷つけたくはなかったんだ……。 雫の大切な奴だったから。 「おい、信太。聞いてんのか?」 「あ、わりぃ。……要注意人物、わかったぜ?」 そう偽りの笑みを浮かべて、俺は竜の隣に座る。 「野球の天才って言われてる、綾野湊。」 「へー。前の奴もそんなこと言われてたな。……なら、信太。今回も頼んだぜ。」 竜がポンと俺の肩に手を乗せた。 したくないのに……。 そんなのも言えねえのか。俺は。 「ああ。任せろよ」 そう言って、俺はうなずいた。