クラスが離れてしまってからのある日のことだった。

私が人が余り使わない西階段を使って1階へ降りていると、前からアイツがこっちに向かって来るのが見えた。

でも、何も話すことなんて浮かばなかった。

ただ、他人のように通り過ぎようとした。

「よぉ」

ただ小さく、聞こえるか聞こえないかの、本当に小さな声ですれ違いざまに、そう言われた。

アイツ特有の微かに笑いを含むような言葉。

私は私の後ろに誰かいたのかと振り返ったが、ただ通り去っていくアイツがいるだけだった。

「よぉ」

私もアイツに少し届くぐらいの声でそう返した。