園庭の隅で輪になってしゃがみこむ集団。
駆けていく章ちゃんに私も続く。
章ちゃん「お待たせ〜!」
ムラ「おう!来たか!早よ座り!」
「みんな〜センセも入れて〜」
ウタ「ええで!センセはここ!」
「ありがとう!なあしーたん、大人になったってどないしたん。」
やり取りの間も深刻な顔つきで1人黙り込んでいた。
しーたん「………オレ寝る時はおとんとおかんの真ん中で寝るねん」
たー「オレもー」
ウタ「オレも」
ヨウ「オレも」
ムラ「オレもやな妹もおるけど」
へいた「ぼくも!」
章ちゃん「うん!」
しーたん「やろ?せやけどな…夜はちゃんと…真ん中で寝たはずやのにな、オレ、朝起きたら………
なんと端っこで寝ててん…!」
「………ほほう」
章ちゃん「えーー!!大人やん!」
(えっ。)
しーたん「やろ!?勝手に大人になってしもてん!」
ムラ「あかんよなあ!緊急事態やで!」
(えええ。)
ウタ「何とかしてやらな!」
ヨウ「しーたん大人になってしもたらオレらと遊ばれへんようなるやん!」
章ちゃん「いややー!」
へいた「どうする!?」
(なんだろう、どこからつっこもう。)
ムラ「どうしよう…このままじゃしーたん………」
しーたん「せやねんムラ…死んでまうねん………」
1番最後に残しておいたウインナーを落とした時と同じくらいに絶望しているしーたんは言った。
(子どもたちなんでや!)
「待って待って、しーたん何で死んでしまうの?大人になったら死んでしまうん?」
しーたん「大人は子どもよりも死んでしまうやろ」
(当たってるような間違ってるような。)
「だから朝からどうしたらええんか考えてたんか」
しーたん「うん。やけど、分からん…」
ウタ「先生どうしたらええん?しーたん死んでまう!」
なんて返したろかな。
「うーーーん。先生も大人やけど死んでないで?」
たー「えっっ先生って大人なん?」
「え、子どもやとおもてたん?」
たー「ううんオンナとおもてた。」
(オンナ!!!!!!!)
「ター君色々問題ありやわその答え」
たー「?」
ヨウ「そんなんどーでもええねん!しーたん何とかならんのー?」
「せやった。しーたん。もしかしたら、しーたんはまだ子どもかもしれんで!」
「「「えっ??!」」」
しーたん「何で!!オレほんまに隅っこで寝とってんもん!ほんまに…ほんまに…どっち向いても…おとんもおかんもおらんくて…ああ…オレはもう大人になってしまったんや…って思って…うそちゃう!!」
立ち上がったかと思えばぎゅっと拳を握って涙をこぼさぬように一点を見つめたまま私たちへ向かって大声を張り上げる。
泣きながら騒ぐしーたんに他の園児たちがこちらを向く。
しーたんは黙ってぎゅっとした拳にさらに力を入れて、膨れた顔で立ち尽くしている。
普段あまり泣かないしーたんだから、みんな驚いて沈黙しているのだろう。
しーたん。声をかけようとした時、ウタが立ち上がった。
ウタ「…しーたん。別に疑ってないで。」
しーたん「…」
ウタ「オレらも先生もうそっぱちやと思ってる訳ちゃうで。な!花子せんせ」
「うん。しーたん、もしかしたらさ、夜にトイレにお父さんかお母さんが起きて、またもう一度寝るときに、たまたましーたんの隣じゃなくて、おトイレから1番近い所に寝ちゃったのかもしれないよ。」
しーたん「え?」
園庭の地面に人型を書いて説明する。
「これがしーたん、真ん中や。こっちがお母さん。こっちがお父さん。お父さんは夜トイレへ行きました。しいたんとお母さんを起こさないように、トイレの後はトイレから1番近い所で寝ました。お父さん、お母さん、しーたんの順番で、いつの間にか寝ていました。」
しーたん「………。」
へいた「しーたん死なへん?」
章ちゃん「きんきゅうじたいちゃう?」
ヨウ「なあしーたん…」
しーたん「オレまだ子どもか。」
「君たちはまだ子どもだ。」
その時いつもの顔でしーたんが笑った。
今日初めて。
へいた「大人なんは先生だけかー!」
ヨウ「大人の女の花子先生はどうしてぼくらと遊びたがるん?」
(色々おかしいとこあるけど遊びたがるって何やねん)
ー大人になったしーたん。ー