夜人【ヨルヒト】さん

イサキがゆっくりと振り向く。

ぜんまい仕掛けを思わせる、ぎこちない動きで白い首が捻じ曲がる。

濡れて束になった前髪の隙間から、冥い瞳がチサエを見つめた。

形の良い唇が、チサエの声を真似た。

『嫌な女。見るだけでムカつくんだ。トロくて暗くて何考えてるか分かんない顔して』

『挨拶してもシカトしようとするし、こっちが話しかけてもろくに返事しないし。だからこっちも構わないようにしてるんだけど』

おどけたような声。だがイサキの表情は変わらなかった。

まばたきすらしない目が、チサエの目を捕えて離さない。

一旦閉じた唇が、開いた。




「だから エミカさんを 殺したの?」