夜人【ヨルヒト】さん

ベンチに置いた手に、じわっと水が触れた。

すぐ横から、水音が聞こえてくる。

「いつも、同じだよね」

イサキの声が、くぐもって響いた。

水底で聞く音のような、ぼんやりとした声。

「なんでだろうね」

チサエの身体が、がたがたと震えだす。

全身の筋肉が硬直し、首筋に冷たい汗が流れた。

本能的な恐怖が、警告している。

右を見るな。

イサキを見るな、と。