夜人【ヨルヒト】さん

「…………」

チサエの表情を覗き込んでいたイサキが、プールサイドを指差した。

リノリウム張りの床上に、プラスチックのベンチが置かれている。

「あのベンチでもう少し休もう。木陰だから涼しいよ」

優しく促され、チサエは頷いた。

イサキの腕に掴まり、ベンチまでゆっくりと歩く。

「ちょっと待ってて。飲み物を取ってくる」

ベンチに腰掛けたチサエに言い、イサキはふっと不安げな顔をした。

「……一人で大丈夫?」

「あ……うん、大丈夫」

作り笑顔でチサエが答えると、イサキは何か言いたげな顔をしたが、そのまま歩きだした。