夜人【ヨルヒト】さん

木造の小屋のドアを開け、飛び込むと鍵を閉めた。

ドアから一番遠い棚の前でうずくまり、耳を塞ぐ。

心臓が激しく鳴っている。耳の奥でキーンと甲高い音が響き、乾ききった喉に血の臭いが広がった。

『チサ……エ……』

「やあああ! いやあああああ!」

消えない残響に悲鳴を上げた。

髪を掻き毟り、声を振り絞る。

見開いた目から、涙が溢れた。がたがたと身体が震える。

チサエの脳裏を、先刻見たエミカの姿がよぎった。

冥い、尽きない闇を覗きこむような目。

何の光も感じさせない目が、チサエをじっと見ている。