派遣社員を大量に詰め込んだ大型バスは、粗い砂利道に細かくバウンドしながら会社の敷地内へと入った。

停止するとすぐ、プシュウという音と共に前後の小さな扉が開け放たれ、僕たちはなだれるようにして地に足をおろす。

「ついてしまった……」

そびえ立つのは大きな建物、ジャングルジム状の太いパイプを抱えた建物5棟は車の部品を主に生産している工場だ。

僕は今年度から派遣会社を通してここ「日本金造」に雇用されている。


……なあに、簡単な仕事だよ。
怪我にさえ気をつければ、誰にだって勤まる。

その証拠に、僕はここに来て2ヶ月だが既にベテラン派遣として扱われる。

2ヶ月でベテランだぞ、たかが知れてる。

言い方を変えれば、僕は職人としてではなく、機械を動かすための「部品」としてここに雇われているのだろう。
そして「部品」はいつでも取り替え可能、予備はハケン会社にたっぷりとストックされている。

低リスク低コスト、何と効率の良い企業経営だろう。

僕たち企業の「部品」が、車の部品を生産しているんだ、皮肉もいいとこだ。


だけど都合の良い事だってもちろんある。

というのは、僕は企業の部品となっている時、どうも「感情が鈍る」らしい。
だから痛いことや辛いことを、実は仕事の時だけは半分くらい忘れていられる。


「……仕事しよう」

その副作用に期待し、僕は職場へと一歩を踏み出した。


働き蟻の一匹のように列を成しながら、次々に僕達はタイムカードを切った。