「うっ」

紗世は絶句し、目を見開く。

嘘でしょう!? と言いたげな顔で相田を見る。


「酷い状態だったよ。会社に出てきてるのが不思議なくらい……時々、屋上で空を見上げていた」


「……」


「暗い顔して声もあげられずに、屋上で泣いていることもあった」


「あ……」


「万萬詩悠の『限りなくグレーに近い空』が群青新人賞を受賞したのは、その頃」


「やっぱり結城さんが?」


「俺も気になって訊ねてみたが、結城はきっぱりと否定したよ」


「否定……」


「『ここに死にたいと思って上ってくるのに……あんなくだらない感傷に浸った小説書く心境じゃない』ってね」


「――そんなに悩んで」

「俺は何も言えなかった……浅田とのトラブルに巻き込まれた新入社員は、俺の彼女で、未だに精神不安定で入退院を繰り返してる」