家を出た僕はずっと一つの事を考えていた。
"眠い"
昼過ぎまで寝たというのにいやに眠い。
昼過ぎまで寝ておいて、何を言っているんだ、と朝から学校があった学生たちや、会社のあったサラリーマンたちは言うかもしれない。
しかし、眠いものは眠い。
出勤の時間が15時からなのに、まだ時刻は14時にもなっていない。
家からバイト先までは多く見積もったとしても30分もあれば着くだろう。
まだ眠れたなと家を出てから後悔していた。
そんなことを考えているうちに最寄りの駅に着き、僕は慣れた足取りで改札を抜け電車を待っていた。
僕の最寄りの駅には自販機の死角に隠れて2つだけ青いベンチがある。
なぜこんな場所にベンチを作ったのか甚だ疑問ではあるけれど、普段からここの電車を乗る人でも、なかなか知らないような気づかない位置にあり、僕はそこで電車を優雅に待つのだ。
座ると、ポケットに手を入れいつものようにスマートフォンを触り時間をつぶしていた。
ふと、電光掲示板に目をやると、次にくる電車が各駅停車しかない。
僕の今いるこの駅は住宅街の真っ只中なのに、なぜか特急が停まるので、各駅停車の電車に乗ったことは一度もない。
いつもの僕であれば特急が来るまで待っていただろう。
しかし、今日はいかんせん風が強いことや、まだまだ時間に余裕があることもふまえて、次に来た電車に僕は乗り込んで行った。

やはりお昼過ぎの中途半端な時間ということもあり、電車の中はガラガラだった。
恐らくどこの車両も同じような感じなのだろう。
僕は端の席に腰掛け、背負っていたリュックを膝の上に置いた。
僕の座っている車両には僕の他に何をするでもなく座っているおばあさんと静かに小説を読んでいる女子高生がいた。
僕はここでもポケットからスマートフォンを取りだし、ゲーム画面を開いた。
僕がゲームに夢中になっているとあっという間に、1つ目の駅に着いた。
普段特急にしか乗らない僕はその駅の名前こそ知っていたが、あまり馴染みのない場所だった。
スマートフォンから窓の外に目をやる。そこには閑静な住宅街が並んでいた。
僕の住んでいる場所と、とてもよく似ていた。まぁ隣の駅なのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。
バイトの時間まで時間があったからなのだろうか。
僕は半分無意識のうちに電車から降りていた。
いやきっと理由はそんなことではないのだろう。なにかこの場所に猛烈に惹きつけられる'何か'を感じたのだ。
僕は引きつけられるかのように改札を抜けその街に降り立っていた。
なんだろう。懐かしさのような切なさのような感情が心の中に渦巻く。これは、ノスタルジーという感情なのだろうか。きっとそうなのだと思う。
なぜこの馴染みもない街にそのような感情を覚えるのか疑問に感じながらも僕は足を進めた。