あたしは言葉を失った。
何故なら、そこには―…
ピアノを弾く、新の姿があったから――。
演奏に集中しているのだろう。
こちらには全く気付いていないよう。
一人、ピアノを弾く姿は
儚い程美しく、
切ない程に綺麗で―…。
「ホンっトに…何なのよ……」
あたしは涙を零した。
憎たらしい程に、新の演奏は上手過ぎて、あたしの全てを震わせた。
躯の芯まで染み渡るような、この感覚を、あたしは初めて感じた。
殆ど部活に顔を出さない新からは、考えられなかった。
こんなに綺麗な演奏が出来るなんて、知らなくて―…。
「な…に…よぉ…」
扉の前で泣き崩れる。
――やっぱり…ズルイのは、
新の方だよ……。
「…っ先輩!?」
気がついたら、目の前には、演奏を終えた新が立っていた。
あたしは相変わらず、俯いたまま。
「ど、どうしたんスかっ…?」
声色を聞く限り、新はとても慌ててるようだった。

