君の記憶に僕は。

と、いうわけで、僕が君と初めて会話を交わしたのは、そんな初夏のある日だった。


勿論その日のことはよく覚えている。今でも鮮明に甦ってくるし、忘れた日は一日もない。記憶の1ピースも落とすまいと、君を想っている。


でも僕が君を初めて知ったのは、もう少し前、入学して1カ月経つか経たぬかというときだった。


僕は、とても現実主義だった。
論理的で捻くれていて、なにより理由の上に答えが成り立たないことが嫌いだった。


だから数学は得意で、国語は嫌いだった。
作者の気持ちで答えが変わるなんて、そんなことあってたまるかって。


そういう自分がとてもおぞましく、汚く見えた。
答えとそれに伴う理由ばかり追いかける自分が、父親に重なり、それがまた嫌だった。


僕は僕を綺麗に見せようと必死だった。


そうすればそうするほど、僕は汚くなる一方だった。


だから、綺麗な絵を描けば、僕も綺麗になるんじゃないかと思った。


だけど結局、絵にも僕の面影はじわじわと染み込んでいた。


描くのは属に言う写実画(写真そっくりに描くもので、1作品に最低1カ月くらいはかかった)ばかりで、やはり絵も、目に見える答えを探しているようだった。


だからこの作品達が何度も金賞をとって、他人から「凄く精密で綺麗だ。天才だ」と騒がれても嬉しくなかった。


逆にその言葉は、僕の首を絞めるだけだった。


ああ、僕はどんなに綺麗にふるまっていたって、結局は汚いままなのか。


本当に僕自身が汚かったかどうかは分からないけれど、僕はそう感じていたのだから仕方ない。


自分の考える「美」と僕はあまりにもかけ離れ過ぎていた。