君の記憶に僕は。

夏の香りってこの事かって、少し気が抜けた。


開けっ放しのガラス戸をくぐり、店内に入る。


生ぬるい空気をかき混ぜるように、柱に備え付けられた扇風機が首を回していた。


狭い店内に、ごちゃごちゃと体に悪そうなお菓子が並んでいる。


君はそんなお菓子になんて目をくれず、真っ直ぐ会計まで歩いていくと、小さな冷蔵庫からラムネを二本、取り出した。


パイプ椅子に座りながら本を読んでいたおばさんが、「200円ねー」と商品を見ずに言う。


君はスカートのポケットから直に100円玉を二枚取り出すと机におき、僕に一本、ラムネをつき出してきた。



「悪いよ、お金返す!」


「いらない、100円だから」


「でも、それじゃあ納得いかないんだ。なにか奢るよ」



君は少し考えるようにラムネを見つめてから、「連絡先教えて」と言葉を発した。


ドクンと心臓が鳴った。


君は伏せていた瞳をあげて、僕をじっと見つめる。



「ど、どうして?」


「理由?」


「……うん」



その理由を知る必要があったかどうかは今もわからない。


でも、そうでもしなければ、たぶん僕は平常心を保てなかったと思う。


耳に、扇風機のブオオオという音が残っている。