君の記憶に僕は。

ガタン ゴトン


ガタン ゴトン


鉄橋を小豆色の電車が通過していく。


僕は君と二人、夏草が短く刈り揃えられている場所に腰掛け、ただなんとなく時間が過ぎていくのを眺めていた。


居心地が悪くない、落ち着く沈黙の中、君はおもむろにカメラを構え、写真をとる。


「何を撮ったの?」そう聞くと、「夏の風」なんて答えてくる。


あの頃の僕は慌てたものだ。僕には君の世界がまだいまいち理解できなくて、それがとてももどかしかった。


実際、夏の風に形も色もないけれど、君の瞳には繊細に写り込んでいたのだろう。


君の瞳は澄みきっていて、僕の瞳は濁っていた。


その事が余計、君との距離を感じさせたものだ。


僕が一人、君に追いつこうと慌てていたそのとき、君はゆっくり立ち上がると、そのまま鋪道へと登っていく。



「橘さん、どこいくの?」


「夏の香りがするとこ」


「夏の香り?」



慌てて僕も立ち上がり、君の横を歩く。


土手を下った道路沿いに、『ラムネ冷えてます』と書かれた薄汚れたのぼりが、ゆっくりと揺らめいていた。