「……思い出した。トモヒロ……忘れててごめん。俺が『忘れられたら寂しいだろ』って言ってたのに……すっかり忘れてて悪かった。約束……したもんな。忘れてたら道連れにしろって。

 遅くなったけど、これから一緒にいてやるよ。向こうでずっと一緒に……トモヒロが寂しくないように一緒にいてやる」

 そして俺はハンドルから手を放した――。







「――……ちゃん、兄ちゃんってばよ」

 ……ん? ここどこだ? 目を開けると眩い光とともにむさ苦しいおっさんの姿が映る。

「おお、気ぃついたか。兄ちゃん。夏とはいえ、こんなとこで寝てたら風邪引くぞ?」

 ……こんなとこ? 言われて辺りを見回す。いつの間にか朝になっており、俺はあの“根性坂”の中腹、むき出しのコンクリートを背に座っていた。傍らには自転車がきちんと停められていた。

「トモヒロ……? なんで俺、こんなとこに?」

 思いっきり自分の右頬をはたいてみる。

「……ってェ~……」

 痛い、と言う事は死んでないって事……だよな。

「……夢だったのかな」

 傍らにある自転車の荷台に手を伸ばし、腰をあげると、サドルの後ろにあるシールにマジックで文字が書いてあった。

 『お前は生きろ! まだ連れてってやんねー。 トモヒロ』


「……あの馬鹿……。“やっぱり寂しい”ったって、もう一緒にいてやんねーぞ?」



   カエリミチ
      終