ホラー短編集



「う、わあっ!?」

 ぐんぐん加速をつけ、自転車は後ろ向きに下って行く。

「ブ、ブレーキッ!!」

 必死にハンドルをブレーキごと握り締める。が、何度やっても自転車が止まる気配はない。

 このままだと死ぬかもしれない――。俺は死ぬのか?

 ……――怖い。いやだ怖い! 助けてくれ!! トモヒロッ!!

 ぎゅっ、と堅く閉じた瞼の裏にある光景が広がった――……。







「――……よーし、こっから降りてギリギリまでブレーキしなかった奴の勝ちな!」

 冬の学生服を着たトモヒロがそこにいた。自転車に乗っている。

「わかった。……でも」

 俺の視界には、自転車のハンドルを持つ汗ばんだ両手が見える。……中学時代の俺だ。

「なんだよ? もうビビってんのか?」

「ち、ちげーよ! でも……本当に危なくないんだよな?」

「大丈夫だって! オレ何度かやってるけど、いっぺんも怪我したことねーよ」

 当時、トモヒロは同級生はもちろん、このあたりで一番の恐いもの知らずで通っていた。そしてその言葉通り、どんなに危ない遊びをしても怪我ひとつした事がなかった。