事件が起きたのは昨日の図書室での事。

私、森風香(もりふうか)は図書委員になった。

地味な委員を引き受けたのも、入学式に一目惚れした、渡瀬樹くんが図書委員長になったから。

放課後、毎日図書室の前の廊下を通り、こっそり眺めるだけで精一杯。

クラスも別で、とても物静かで、特定の男子としか話さない樹くんとの共通点が見つからなかった。

だから、どうにか近くに行きたくて図書委員になったの。

なのに、楽しみにしていた図書委員初日の昨日は、期待とは裏腹に、簡単な業務内容の確認を受けて終了。
樹くんと話すことはなかった。

絵にかいた様にトボトボと校舎を後にした。

どうにか話す切っ掛けはないかな?

樹くんいつも本読んでるから、同じ本読んで共通の話題を作るとか?

でも、樹くんが読む本って何か難しそうなんだよねー。

精神世界の何ちゃらとか、もう絶対、活字の多さと難解さで頭痛くなって、最後まで読めないよ。

私が最近読めた本なんて、現国の美鈴先生からお薦めして貰った、銀色夏生の詩集くらい。
美鈴先生も高校生の時に読んだらしい。

薄い詩集でさえ、返却日ギリギリまでかかってしまうんだから、樹くんと同じ本を読むなんて、無理だわ。

…って、そうだ!今日返却日だ!
せっかく持って来たのに、忘れてた。

慌てて校舎に戻り、図書室に向かう。

夕焼けの色が校舎の中に差し込んでいる。
もう校舎には人気もなく、図書室も誰もいない。
良かった、鍵は開いてる。

さっき教わった返却作業をして、詩集を本棚に戻しに行く。
銀色夏生、銀色夏生…あった!

本棚に詩集を戻そうとした、その時。
人の声が聞こえた。

「ダメ、学校で近寄らないで」

「そんな…外で会ってくれないのに、どうすればいいの?」

おお!何やらカップルが揉めてる。
さすがに今出ていくのはマズイよね。

ん?あれ?この声…

「こんなに好きって言ってるのに、何で分かってくれないの?美鈴ちゃん」

樹くんだ!

本棚に並んだ本の隙間から覗き込んだ先に、樹くんが立っている。

そして、その腕のなかで抱き締められてるのって、美鈴先生だ!

嘘…何これ?