6月の花婿にさよならを[短編]




「遅かったじゃない、結羽。」



リビングに入ると、ちょうど紅茶を入れ直すために席を立ったお母さんと、目が合った。



「ほら、こっち来て。恵さんとは初対面でしょ?」



「…うん」



溜息をつきたいのを我慢して私は、お父さんと向き合ってソファーに座る,爽ちゃんと恵さんの方に体を向けた。



「…初めまして、結羽ちゃん。恵です。」



艶やかな黒髪の女の人と目が合って、その人が私に挨拶をする。



その容姿も声も洗練されていて、私は、ああ敵わないな、と思った。



…勝負に出ることさえ、私はし損ねたというのに。



「…尾崎結羽です。」



「結羽、笑えよ。顔が怖い。」



楽しそうに笑った爽ちゃんが、恵さんの方を向いて明るい声で付け足した。



「俺の幼馴染み。妹みたいなもんなんだ。」



いつもならそう宣言されることに誇りのようなものを感じるけれど、今は全然嬉しくない。



「そうなのね、よろしくね結羽ちゃん。」



と言って微笑んだ恵さんは、とても綺麗だった。