原田はそんな二人を見て妙な笑みを浮かべた。
「私はこれから巡察でして。」
原田は『巡察なんてありゃしない』と心の中で呟くと総司を見た。
総司は頭を下げると、足早にその場から立ち去った。原田はそんな総司を追うかのように後についた。
「総司、もしかすると、あれが例の縁談の。」
「はい。」
総司は低い声で返事だけをすると、足早に西本願寺の門を出ようとした。
「蒼祢さんとは、なんかこう感じは違うが、なかなかの美人じゃねえか。」
そんな原田の言葉に総司は黙った。
 門を出た際、いきなり声がした。
「総司様。」
総司は急いで振り返ると、そこには蒼祢が立っているではないか。
総司は何かの間違いではないか、と頭を振ってみたが、それは紛れもなく蒼祢であった。なぜか焦りだす総司に蒼祢は首をかしげ、また原田は笑った。
 蒼祢が原田に気が付くと、蒼祢は静かに頭を下げ
「おひさしゅうございます。」
と笑みを浮かべた。
蒼祢は使いの途中だと言い、この近くを通る度に立ち寄っているということであった。
 総司のいつもとは違う態度に蒼祢も不思議がって、問いかけた。
「そんなに焦られて。どうされましたか。」
そんな問いかけに総司は何と答えたらいいのかも分からず、ただ苦笑いを浮かべるだけであった。
その直後、またも後ろから総司は名を呼ばれたかと思えば、今度はお通の姿があった。
「沖田様。今度は私の方から伺います。」
とお通が言うものだから総司も困り、とっさに「はい。」と答えてしまったのだから仕方ない。
原田もさっきまでの表情とは一転に驚き戸惑う表情を浮かべた。
お通は笑いながら頭を軽く下げると、お供の女も静かに頭を下げ、その場を去っていった。
蒼祢に目を向けると総司は何も言えず、ただ下を向いた。
「これから診察なので。失礼します。」
蒼祢の強い口調に総司は、うつむくと、原田は総司の代わりに訂正するかのように続けた。
「え、今日はたまたまでして、たまたま出くわしたいう方が正しいので……
あれはただの沖田くんの縁談の女性でして……」
しまったという表情を浮かべた原田は総司を見ると総司も同じような表情を浮かべた。
蒼祢は、
「ようございますね。」
とだけ言い残すと足速にその場を立ち去った。
総司は西本願寺から帰る途中、一言もしゃべらなかった。