「馨、ノート見せて」

「また授業中寝てたの?仕方ないなあ…」

「さんきゅ」

 幼なじみの尊の笑顔に、不覚にもきゅんとする。

 僕が女の子だったら間違いなく尊に惚れてるだろう。

 しかし何故だか尊はモテない。モテるのはいつも僕の方。

 それを尊は羨ましがったりからかったり。

 僕にとっては尊の方が、僕よりずっと魅力的だと思うんだけど。

「僕が勉強できてよかったね」

「だな、馨みたいな幼なじみがいてよかったわ」

 ほら、そうやってまた女の子が喜びそうなことを平気で言う。

「そういやもうすぐバレンタインだな」

「え?あ、ああ…そうだね」

「どうせ俺はまた母さんからの1個で、お前は大量なんだろうな」

 僕は尊の言葉に少しドキッとした。

 バレンタインに尊にチョコレートをあげようと思っていたからだ。

 あくまでも、幼なじみとして。

「今年はたぶん、他の人からももらえるんじゃない?」

 まだ言うのは早いだろう、と少し濁して言った。

「え?何?俺のこと好きな子知ってんの?ついに俺にも春到来?」

 …わかってたよ、気付かないのは。

 今までどんなギリギリのアプローチしても、なんのリアクションもなかったもんね。

「さあね」

「おーしーえーろーよー」

「もう授業始まるから席戻るね」

「ズルイぞ」

 こんなやりとりをできるだけで今は満足しよう、そう決めたのにやっぱり進展させたいんだろうな、僕の本心は。