マリーちゃんと一緒に薄暗い廊下を歩いていくと、一年D組の教室からぼんやりと明かりが漏れているのが見えた。


中に入ると教卓の上に足を組んで座るツバサ先輩と、その近くの壁にもたれているジュリーちゃんの姿があった。

その他に男子生徒が二人いる。

確か二人ともクラスメイトだったと思う。



みんな目をぎらぎらとさせ、物々しい雰囲気を醸し出していた。



「来たわね」



ジュリーちゃんがそう言って、口元に笑みを浮かべる。




「これって何の集まり? 」


私の質問に、ツバサ先輩は教卓に座ったまま
無言で自分の後ろの黒板を指差した。

先輩のその仕草が、夕方のローテンションな
振舞いとはかなりかけ離れたもので、少し反応に困ってしまう。


黒板には“ジョニー救出作戦本部”と
黄色いチョークで殴り書きされていた。



「ジョニーって? 」



私が聞くと、ジュリーちゃんは少し困ったような顔をして言った。


「あと一人のクラスメイトよ。ミラクの彼氏」


「へえ……それ復讐フラグだね」


「まあ、そうね。ちょうどミライが来る三週間前に、魔女狩り賛成派のマーモンっていう悪魔に一人で真っ向から反旗を翻して、今はそいつの城に幽閉されてるわ」



うん。

要するに、馬鹿なんだね。


あとマーモンって名前も初めて聞く。



「マーモン様はね。“七大罪”のうち強欲を
司る悪魔で、とっても欲張りなの! どれくらい欲張りかって言うと、千年以上生きたくせに
不老不死を目指しちゃうみたいなっ! あと
かなりの気分屋さんって聞いたことあるよ! 」


と、マリーちゃんが説明してくれた。


気分屋さんなら私とは仲良くなれなさそうだな。

まず“七大罪”って何なんだろう。

校長先生はその“七大罪”とやらに私のことが知られると面倒らしいことを言ってたわけで、
私はこの場にいていいのだろうか。


マーモンという名前を聞いて、ジュリーちゃんは苦虫を噛み潰したような顔をした。


「やっぱり行かなきゃ駄目? あたし、あいつに
酷い目に遭わされたトラウマがあるんだけど」

「あ、そうだったね!ジュリーをゾンビとして
生き返らせたのってマーモン様だっけ」

「正しくはフランケンシュタイン博士よ。
どっちも頭のネジがぶっ飛んでることに変わりはないけれど」



壮絶な会話だ。

やっぱりそのマーモン様とは仲良く出来ない。

あとフランケンシュタインってこの世界
在住なんだね?!



「それで……ジョニーくんを助けるのに
私って必要かな? 」



何も知らないで来ちゃったけど、どう考えても私は皆の足手まといになる。



「捕まる前にジョニーが、イズミって名前の子と仲良くなったって言ってたのを思い出したの。確かミライに《学園》に行くように言ったのもその子でしょう」


「イズミくんが? 」



《学園》に向かえと言った彼は、そこに協力者がいるはずだとも教えてくれた。

それって校長先生のことだと思ってたけど……。



「お前が足手まといになるかどうかについては問題ない」



ツバサ先輩はそう言って教卓から降りて、
机の上に広げられている紙を広げた。


そこには“マーモンの城 見取り図”と書かれており、地図のような絵の上に赤いペンで
矢印がいつくも引いてある。



「城と言っても、建物の造りはお前の世界で言う病院みたいな感じでほとんどの部屋が
実験室か、実験体を収容しておく牢屋だ。
ジョニーは恐らく、牢屋のどこかに幽閉されてる」



先輩が指差したのは、地図の横の手錠が壊れたような絵。

それに上から×印が書かれている。




「幸いマーモンは留守だし、お前にしか頼めないこともある」


「私にしか? 」



ツバサ先輩は頷いて、今度は私の服のポケットを指差した。



「お前が持ってるその指輪。それが使えると
思うんだよ」


「イズミくんにもらったんです。これをガーゴイルくんたちに見せたら入れてもらえて」


私は指輪を先輩に見せた。

それを見て、ジュリーちゃんは


「綺麗な宝石ね。ルビーかしら」


と感心したような様子で言った。

いや、とツバサ先輩は首を横に振る。



「その宝石は魔女の血で作ってある。古い魔法だ。どんな魔法も跳ね返せるから、ジョニーの拘束具も外せるかもしれない」


「つまり……私がジョニーくんを解放しろと。
指輪の力で」



そのとき私は、何だか胸が躍るような心地がした。

何だか自分がファンタジーものの映画の主人公にでもなったみたいだ。



「理解が早くて助かる。お前を危ない目に遭わせたくはないが、それは悪魔や妖怪には触れないようにしてある。人間を守るためだけに作ったような指輪だな」



なるほど、だから私にしかジョニーくんの
拘束具は外せないと。


私は掌の指輪を見た。

赤い宝石が血で出来てるなんて聞いたらちょっと怖いけど、この指輪を初めて持った時から
何故かは分からないけど、誰かに守られてるような感じがした。

お母さんに抱きしめてもらったような。
そんな安心感。


そういえば、悪魔には触れないのに
イズミくんは普通に持ってたような。

ガーゴイルくんたちが言ってたベルフェゴールって名前も気になるし。



「ちょっとツバサ先輩~!お前を危ない目に遭わせたくないとか、何ちゃっかりかっこいいこと言ってるんですか~!」



ツバサ先輩の地味に優しいセリフを、すかさず茶化してくるマリーちゃん。

確かに私も思ったけどね?!

ちょっとどきっとしたけどね?!