すっかり暗くなった部屋で、慧は眠る咲を見ていた。


途中、息をしているかを何度も確認しながら、病院へ行かせなかった事の後悔が押し寄せた。


今からでも遅くない、救急車を呼んだほうがいい。

しかし、それでは高平の思い通りになってしまう。


そういう逡巡を何度しただろうか。


ふいに、咲の瞼が動いたかと思うと、目を開けた。

「・・・・先生っ」

「・・・・・・・・」

所在なさげに瞳が泳ぐ。

「先生、どこか・・・気分は悪くない?」

「しらかわ・・・・くん?」

「うん・・・先生、覚えてる?」


咲は慧の顔を見ていたが、眉間にしわを寄せて目を瞑った。

「・・・・せんせ・・・」

「うん・・・・・うん、覚えてる・・・・・大丈夫」

「・・・・何か飲む?」

「じゃあ・・・・お水を・・・」


確かにとても喉が渇いている。

咲は半身を起こし慧からグラスを受け取ると、良く冷えたそれを一気に飲み干した。


「もっといる?」

「ん・・・・」


二杯目の水も半分程まで一気に飲んだ。

こんなに喉が渇くのは久しぶりだ。

グラスを持っているのがだるく、サイドテーブルに置こうとすると、慧が受け取ってくれた。


「ありがとう、白河くん・・・・・・ここまで、運んでくれたの?」

言いながら咲は自分の着ているパーカを見て、胸の辺りを探るように掴む。


「ごめん、先生の服持って帰ってこれなくて・・・・悪いけど俺の着てもらった」

「そう・・・・ありがとう・・・・」

「高平から電話があって、場所は、なんとなく分かったから・・・」

「そうだったんだ・・・」


最悪の顔色をしながら、それでも薄く微笑む咲を見てなんだか遣り切れなくなる。