目が覚める。
「やだ・・・」
目の前には授業でやった小テストの解答用紙がある。
学校で採点し切れなかった分を持って帰ってきたのだが、いつのまにか眠ってしまっていた。
夢。
忘れてた、あんな事があったなんて。
けれど確かにあった。
一言も言葉を交わすことは無かったけれど、あの時の目は・・・
そうだ、似ているんだ。
似ても似つかない外見をしているのに、彼らは二人とも同じ目をしていると咲は思った。
あの日、マンションの前で咲を待っていた慧のその瞳を思い出す。
『先生はお酒のせいするかもしんないけど。だけど、俺はそういうんじゃないから』
『うん・・・・・・・・ごめん、分かってる』
あの日・・・・・・
自分はなんで彼とあんな事をしたのか。
酔っていたからか。
きっと違う。
あの瞬間に分かっていた。
けれど、そんなことがあっていいわけが無い。
この気持ちを肯定してしまっては、何もかもがきっと壊れてしまう。
けれど。
『私に・・・・・何か出来る事ある?』
『先生として?』
『そうよ』
あの時の慧を思い出すと今この瞬間にも胸がざわつく。
慧が姫華の事を大切にしている事は間違いがないはずなのに。
じゃあ一体なぜ・・・・
分からない。
自分が一体何をしたらいいのか。
慧が一体、何に苦しんでいるのか・・・・
その時ドアチャイムが鳴った。
(あれ?宅急便?)
何か頼んでいたっけ?と考えながら咲はカメラ付きのドアホンを押す。
そこに映ったのは予想もしていない人物だった。