誰もいない校庭。


咲は窓際に立ち、ぼんやりとそれを眺めていた。


天気の良い、晴れた春の日。


教室は静かで、カリカリという生徒達のペンを走らせる音だけが響いている。

咲は試験監督として今、数学のテスト中のこのクラスを担当している。


試験開始から約15分程が経過し、咲はざっと教室を見回した。



すると、ひとりの生徒と目が合う。

他の全員が机に向かっている中、一人だけ自分を見ている生徒。



ああ、彼は・・・・・・



窓から差し込む春の光に、薄茶色の髪の毛が透けていた。

白い肌は光に溶けそうで、それはなんとなく神々しくすら感じられる。



咲はほんの少しの間、彼を見つめていた。

が、それは本当に少しで、すぐに、何かあったの?と目で問いかけた。


消しゴムを落としたとか、トイレに行きたいとかそういった申し出は試験中にたまにある。

しかし彼は何を言うでも無く、咲を見つめ続けている。


(?)


何かあるのかと、咲は彼の元へ歩いてゆき机の上の解答用紙を見た。


するとそこには既に、几帳面な文字で最後の問題まで全ての回答が示されていた。



なんだ、既に終わっていたのか、そうか彼はとても数学の成績がいい生徒だった。

そうだ、自分の担当する科学の成績は学年で一番ではないか。


咲はそれを思い出し、彼が問題を見ていなかったのは既に回答を終えていたからなのだと分かり安心する。


ふと自分を見上げた彼に「ごめんごめん、なんでもなかったのね」という意味を込めて笑顔を作った。


彼は、感情の読み取れない表情で咲をじっと見ていた―・・・・・・