地下の車寄せに待機していたタクシーに乗る。

意識の無い女性を抱えた若い男を、簡単に乗車させてもらえるだろうかという多少の不安はあったが、問題無くドアは開いた。
運転手はバックミラーでちらりとこちらを確認したが、特に何も言われない。

乗車場所が外資系の高級ホテルだからだろうか?

確認するとバックミラーの横に車内へ向けたドライブレコーダーが取り付けてあった。
何かあった場合は、それに全て録画されるのだろう。




咲のマンションの前でタクシーを降りる。

咲は車内で何度か身じろぎをしたが、まだ意識が朦朧としているようだ。

「せんせ、ちょっとバッグあけるよ」

慧は目を覚まさない咲に一言声をかけると、バッグから鍵を取り出してオートロックの扉を開けた。



咲の部屋の中。

ここへ来るのは二度目だが、寝室へは入った事が無い。

短い廊下の突き当たりのドアの先はLDK。

あの日と同じ様に整理された部屋だが、ダイニングのテーブルの上に、書類が乗っている。

テストの答案用紙。

作業中だったのだろうか、それは途中で投げ出されたままになっおり

ペン類はもちろん、飲みかけのコーヒーまでそのままになっていた。

南向きのリビングダイニングと続きになっている部屋を仕切る引き戸を開けると、そこはリビング同様綺麗に片付けられており、ベッドメイクもされているシングルベッドがあった。

慧は咲をベッドに寝かせると掛け布団を掛ける。


ベッドの横に座ると、慧はそっと咲の頭に手を当てた。